欲しいものは一つだけ
朝、目が覚めた僕は右手を握って開く、を何度か繰り返した。
手の向こうにはシーツの白い波。あの穏やかなブルーの雪原とは違う。
でも、ここが僕の雪原だ。
頭の中にそんな自分でもよく分からない台詞が浮かぶ。
気分は悪くない。どちらかと言うと気持ちのよい目覚めだ。
いつもはしていないが、窓を開けてみた。
黒い城壁と山と空、見下ろすと噴水。
もし窓を開けた先があの輝いた景色だったら僕はむしろ絶望するよ。
心の中で大賢者に語りかける。
エンギワルーという鳴き声が聞こえて、着替える気になった。
コン コン
「猊下ーおはようございまーす。」
「はーいおはよー。どうぞー。」
ヨザックは僕の貧弱な上半身を見つけると顔を手で覆った。
「やーだー上を羽織ってからどうぞとおっしゃってーん。」
「あぁゴメンゴメン、君だと思ったら安心しちゃって。」
「えっ!もう、猊下ったらそうやって誤魔化して。」
くっついていた指が離れて、その間に青い目がチラチラしている。
目線の先を晒してやろうと下に手をかけると、いやんと言う裏声が聞こえた。
そこから先はイチイチ拾ってやる必要はないだろう。
グリ江ちゃんのチラ見と時折上がる小さな悲鳴を無視して僕はいつもの装いになった。
「見てないと仮定して一応言ってあげるけど、着替え終わったよ。」
「本当に?目を開けたら裸だったりしませんの?」
「服は着てるが臨戦態勢だね。今すぐ君にぶち込むことも出来ちゃったり。」
パジャマを洗濯籠に入れながら返してやったら、部屋の片隅が不満そうな空気に変わる。
ヨザックは乙女の顔をやめ、手を降ろして面白くない顔をした。
「その顔で口汚いこと言われると萎えちまうんですけど。」
「じゃあもう一度勃たせてあげないと。」
寄って来た彼の股間にソフトタッチしたらヨザックがくわっと目を見開いて
結構な力で頬を抓ってきた。
暖かい指が頬に食い込んで痛い。熱を持ってくる。
「猊下!そういうこと言うのはこの口ですか!」
「んあーっ!健全な男子高校生が言うレベルの下ネタじゃないかぁ!」
「これだから男性は嫌なのよ!何かって言うとソッチの話に繋げて!」
「最初に僕の股辺りを見たのはグリ江ちゃんだろー!」
「乙女がそうしちゃっても触れないでいてくれるのが男の優しさじゃない!」
抓ったまま捻られて、あまりの痛さに僕はごめんなさいと謝った。
ヨザックの手に人差し指から小指までを引っ掛けてちょっと握る。
僅かに緩んだ力が、僕を幸せにさせた。
2007.12 thanks you web clap!
うちのヨザックは自分で下ネタを振っても猊下が下品過ぎると怒る
という面倒な男です(笑)
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