優しい激情


 傷付くってこういうことだ。

対等ではないにしろ唯一眞王に苦言を呈する事が出来るのは自分だけなのに
彼の遊びに本気で傷付いて死にそうだなんて大賢者が聞いて呆れる。
抗議の為に一度地球に帰ってみようか。
扉の開閉責任者が眞王であることは分かっているが思わずそう考えてしまう。
書庫に閉じこもってちょっと凹むぐらいは許されるだろうか。
こんなことでイチイチ凹んでいてこの先、国や民が守れるのか。
会釈をする巫女の微笑みが儚く思えてはいけないのだ。
強く、永劫の物にしなければならないのだから。
鞭を打てば傷付いた心でも彼女に微笑み返す事は容易。
国などと大袈裟な鞭でなくてもいい、心配をかけたくないと
それだけでまだ頑張れる。

逃げるなんて真っ平ゴメンだと強がる自分と
早く独りになりたいと思う自分がせめぎあい、眞王の無邪気な笑い声が頭の中に蘇えった。

独りになんてなれない。
いつもどこかで、彼が見ている。
それでも村田は誰も居ない書庫の扉を閉め鍵をかけた。
閉ざした心の壁を背にズルズルと身体が堕ちていく。
膝を抱え、込み上げる涙を堪え、考えうるだけの悪態を心の中で繰り返す。

自分が大切にしているヨザックへの想いに上から泥を塗られた気分だ。
ヨザックが好きなのに、引きずり込まれた夢の中で
眞王のキスが嬉しかった。

魂が眞王を愛している?

「…この魂は“村田健”だって、言えないのかなぁ。」

渋谷の為に、眞王の為に、眞魔国の為に。
その為に生まれ落ちたのだと記憶に伝えられてここまでやってきた。
捨てようと思えば捨てられたと思うが、どうしてかこの道を自分は選んでしまった。
それも魂の成せる業か。
村田健の性格に大きく影響していると。
ぐるぐると考えが巡って、大きく溜息を吐く。

答えが出た事はない。

「ヨザ…。」

どうしようね。
君の名を呼ぶといつもは強くなれるのに
今日はなんだか胸が痛くて

愛の怖さを思い知ったよ。

2007.05 thanks you web clap!

使命を持って生まれたとしても村田健の楽しみだって持ちたいじゃない。

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