必然の偶然
夕焼けの空が僕の好きな人の髪の色なのは偶然。
膝を抱えてただただ眺め続けた空がその色になるといつもお腹が空いてくる。
必然と言うか自然現象、人間の摂理。
おお、夕焼け以前の空も好きな人の瞳の色ではないか。
残念な事に好きでない眞王の瞳の色も青だけど、気付かなかったことにしよう。
お気に入りの本を一冊手にして半日だけの引き篭もりの僕は
ようやく外の世界へ踏み出した。
今日の晩御飯は何だろう。好きなおかずが出るといいなぁ。
大賢者が直で厨房に行ってご飯をくださいと言ったらどんな顔をされるだろう。
食堂に赴いて可愛い巫女さん達に囲まれての食事というのもいい。
そうだ、魂の君には食べられないだろうーと彼の好きな物を
わざとあの部屋で食べたら些細でも仕返しにはなるんじゃないか。
性格が悪いと言われたら大賢者の魂のせいだと言ってやろう。
いつも僕を悩ませているんだからこういうときぐらい
都合よく使わせて欲しい物だ。
「あ、猊下。そこに居たんですか。」
「うん居た。ヨザック、君も一緒に来てくんない?」
「どこにですー?」
「眞王のとこ、そこでご飯食べながらイッチャイッチャイッチャイッチャしよう。」
「何の為にそんなことを。」
「僕にはヨザックが居るから諦めてっていうのを態度で示そうと思ってさ。」
「あらやだっ!やっぱり彼は猊下に気があったのね!」
「昔の恋人の面影重ねられちゃって、あーやだやだ。過去を引き摺る男って。」
「四千年の記憶を文字通り引き摺ってる猊下には言われたくないでしょうが…。」
「はー?君どっちの味方なのさ。同情でチューしてやれって言うの?」
「チューされたんですかぁ?まぁ俺は奪われたら奪い返しますけどね。」
チュッと僕にとっての甘いキスで苦さが少し和らいだ。
僕は大賢者なんて大層なご身分だけど眞王の歯車に放り込まれていて
何だかんだと従っている。
いつか君は渋谷に言ったらしいね。
どんなお方が魔王になられてもオレたちは黙って従うだけだ、って。
相手が渋谷で良かったね。
性悪で陰険な魔王だったら首を刎ねられてたかもしれないよ。
僕は君のそういう、人間らしい最後の抵抗が好きだ。
心根の一番深いところまでは決して譲らない強さが好きだ。
だからね、僕も君とのことだけは
村田健として最後まで抵抗してみようと思う。
これが偶然でも必然でも、どちらでもいいよ。
村田健は“彼”に従うけれど、この想いまでは譲らない。
「ヨザ。」
「はぁい?」
「今度からは、僕が泣いてても迎えに来てくれて構わないよ。」
「はぁい。」
「君になら、構わないんだから。」
「…はぁい。」
でも今日は僕の強がりを守ってくれてありがとう。
偶然を装った登場が下手な女優さんは今すぐにムラケン監督と
キスシーンからお勉強しましょう。
2007.05 thanks you web clap!
なんとなくね、これといった解決法はなくても空の色が変わるのを
ただただ見つめていたらお腹が空いてきて外に出てく気になるって
そんなことを人間は繰り返していると思うのです。
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性悪眞王陛下は受け入れられるだろうか?と不安に思いながらのUPでしたが
意外とこの5本は拍手などからコメントを頂けてとても嬉しかったです。
ありがとうございました。