甘くて苦いキス


 頭の中に映像が流れん込んでくる。
随分と厭味、というか陰湿なことをするよね。
ヨザックには普通と言ったけれど僕のコイツに対する感情は
スキとかキライを通り越しているんだよ。
「あのさー…僕こういうので興奮する趣味ないんだけど。」
耳元で、頭の後ろの方で、瞼の裏で、眞王が笑ったのが分かった。
やっていることは汚いくせに笑い声は子供のように素直であどけなささえ感じる。
面白がっているのか、その愉しみで人がどう傷付こうと関係ないと?
そんなことを許してくれるのは大昔の大賢者様だけだ。
「僕がどうでもいいとか言ったのが気に入らなかった?」
『ただ思い出話がしたいだけだ。』
「こういう思い出は、本人としか語っちゃダメなんだよ。例え死んでたとしても失礼だと思うな。」
『本人だろう?』
「物覚え悪過ぎじゃない?僕は村田健なんだ。」
『あぁ、そうだったな。』

ぐいっと意識までが記憶の中に引き込まれて村田健が穴の中に落ちていく。
夢の主人公に自分が重なって、目が覚めたときはあんなの有り得ない、おかしい、と思うのに
そのとき僕は何の疑問も抱かずに“彼”のキス受け止める。

幸せが胸の中を一杯にしたところで僕は夢から突き飛ばされた。

「…随分と甘いキスしてたんだね。」
『そうだろう?』

ふふん、と自慢する声に僕は苦笑いしか出来なかった。
負けを認めたわけじゃないよ。僕は大賢者じゃないんだから。

あんなキス、苦くて泣けてくるだけだ。

2007.04 thanks you web clap!

性悪眞王。彼は本当にからかってるだけですけど。
たまに、ハイハイって流せなくて心がぐちゃぐちゃになっちゃうときがある。

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