突発性運命
「運命なんてイメージは壮大だけど突き動かされた先がコレだと悲劇のヒーロー気取る気にもなれないよね。」
「確かに…なぁ、お前ソレ、制服大丈夫なのか?」
「現段階では大丈夫じゃない、洗えば……大丈夫になるんじゃない?」
この沼が浅くなければ渋谷と自分は確実に死んでいたと思う。
スタツア(渋谷語録より引用)の始まりは少しだけ深い水溜り。
辿り着いた先は眞魔国の森の中の泥沼。
纏わりつく泥の重さに必死でもがいて岸に手が届いた頃にはお互い
顔も頭も口の中もどこもかしこも泥まみれときた。
7時間目がある学校帰りの僕と、家に着いて着替える暇があった渋谷。
魔王の方が強運ってことかなぁ。
家に代えの制服はあるけど、地球に帰るとき運良くこの制服を
身に着けている確率なんてゼロに等しいんだよ。
例え洗って大丈夫になったとしてもこの制服とはおさらばしなければならないってわけ。
「運命の尊い犠牲…。」
ブレザーを脱ぎ地面に落とすとべちょっというなんとも哀れな音。
渋谷の服は腕から抜いた途端、フードに溜まった土の重さで自然と落ちていった。
ここまで泥だらけになるともうどうでもいい。
Yシャツの白く助かった部分でメガネを拭いてやろう。
「陛下ー!猊下ー!」
「陛下って呼ぶなー!名付け親ー!」
森の向こうから聞こえた蹄の音と呼ぶ声にいつもの返事で渋谷が応える。
このやりとりのあと、ウェラー卿は決まって嬉しそうに笑う。
凄まじく爽やかな顔で現れるんだろうなぁ。
そりゃもう白馬ではないけど王子様って感じで。
運命の相手としては申し分ない。
なんて思って声の方角に目を向けて待っていたら。
タイプは違うけど見た目だけなら男前のヨザックの声が僕を呼ぶ必死な声が聞こえた。
ウェラー卿の呼びかけに渋谷だけが応えたせいだろう。
応えてやれば?と僕を見る渋谷に面倒臭いと言いながら
思いついた悪戯に僕はウキウキしながら息を吸い込んだ。
「猊下って呼ぶな!恋人ぉーーー!!!」
僕が見たかったのは渋谷の必死の形相ではなかったんだけど。
でも酷いじゃないか、いつまで経っても沈黙のままなんて…僕の名前を考えているね?
筋肉ばかりの脳みそをフル稼働させて彼が僕の名を思い出した。
「ムラター!!!!」
百年の恋も冷める。
前世の魂が触れ合ってたりしない運命の相手なんてこんなもんか。
こんなもんか、と冷静に分析しながらも泥沼に飛び込もうとする僕は
運命を信じて恋するお年頃。
渋谷が僕を健と呼んで羽交い締めで引き止めた。
運命の相手は渋谷で、ヨザックはカロリアでの突発性運命に違いない。
やっぱり渋谷が一番だ!女装オタクめ!!!
2007.03 thanks you web clap!
初めての拍手SSでした。
こういう冗談もたまにはいいかなぁの猊下。
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