「内緒です」


その響きは触れないで、ではないと有利は思った。

ずっと俺のコトを考えて気にしていて、って感じ?

適当に撫で回し続けていたヴォルフラムの頭を見下ろす。
軍服で寝て暑くはないのだろうか。
溜息を吐きながらユーリはヴォルフラムの傍らに身を横たわせた。
半目になっている瞼を手で完全に降ろして天使の寝顔の出来上がり。
ぐぐぴぐぐぴはもう愛嬌として可愛く聞こえるようになった。
金髪に指を絡ませ、何の夢を見ているのかと考える。
浮気者ーと言ってくれたら自分の夢なのだろうが、ぐぐぴの天使は
先ほどから一定のリズムでイビキを掻くだけで夢を見てはいないようだ。

うたた寝で熟睡すんなよな。

彼がなかなか起きないのをいいことに、有利は背中に腕を回して抱き締めた。
片脚を乗っけて中途半端に挟んでもみる。
男なのでゴツゴツしているが眠って体温が上昇しているヴォルフラムの
抱き心地はそれなりに良い。
香水はつけないと言っていたが、同い年の男とは思えない清潔な香りがする。
これが体臭だとしたらヴォルフラムの主食はハーブだろう。
婚約者の鼓動と温もりを感じながらまったりするなんて
自分は随分と大人になったものだ。
本人が起きているときはここまで大胆に撫で回したり戯れにキスをしたり出来ないわけだが、それでも身体中の血を逆流させて身悶えることはなくなった。
触れる、ということで安心が得られるようになった。
「…いくら相手がいい奴でもさぁ、娘の彼氏となるとまた別だよなぁ。」
この、自分がベタベタ触れまくっているヴォルフラムにも
当然、親御さんが居て、産まれたときなんかお父さんは絶対に
誰のとこにも嫁がせるもんか…という思考の途中で有利は一度寝ているヴォルフラムに謝った。
彼は女の子ではない。
彼の母親は息子の恋愛を両手離しで応援している。
阿呆らしくなって有利は身体を起こした。
明るくて素直で可愛いグレタに男子が寄ってくるのは仕方のないことだ。
手紙の所々に甘酸っぱい思い出が含まれるのも仕方ない。
グレタがその人物を好意的に捉えていて、女子には分からないかもしれないが
男からみたらソイツは絶対お前のこと好きですヨ、という状況も
遅かれ早かれ訪れる思っていた。
自分はそのとき、ちょっとヴォルフラムと凹んで、でも娘の幸せの為なら仕方ない
なんて言えると思っていたのに。

「あぁっグレタに彼氏なんてまだ早ぇよ!」
「その通りじゃり…不貞な輩はユーリと僕が成敗じゃり…。」
「寝ながら賛同ありがとよ!」

サイドボードに置いてあったピンク色の便箋を素早く、しかし丁寧に封筒に入れ
有利は再びヴォルフラムの傍らに転がった。
まだ確かではない彼氏候補にも複雑な気持ちになるのだ。
婚約者ともなれば彼を可愛がる“兄”の気持ちは生半可なものではないはず。
いくら相手がいいヤツでも、そういう問題ではないのだ。
ユーリみたいに正義感があると書かれれば
それは無鉄砲に突っ走る可能性があるんじゃ?と心配になるし
ヴォルフみたいに男らしいと書かれれば
そいつ凄くモテない?浮気しない?と心配になる。

実際にそいつを知っていたら知っていたで、
きっとまた違う不安が付き纏う。

「そんで不安になって聞いたら、内緒ですだぜー。」
「もが?」
「…ヴォルフー。」
「ユーリ…くっつくな、暑いだろうが。」
「うわぁお前、それが婚約者に対する台詞かよ。」
「暑いものは暑いんだ……どうした?」
目を覚ましたヴォルフラムに有利がへなちょこ声で縋ろうとすると
彼は寝起きの顔を顰めて胸を押し返してきた。
あまりにもクールで男前な反応に有利は渇いた笑いを零す。
その中に少しだけいつもと違う“へなちょこ”を発見したのか
ヴォルフラムは湖畔の瞳を瞬かせた。

「あー、いや、俺って、お前の婚約者としてどうなんでしょうかって思ってただけ。」
「お前が今のままでいいと思うならいいだろう。物足りないと思ったらそのときは僕が言う。」

はい、男前の婚約者様。
でもこれ、お前と俺の問題じゃなくて
お前が大好きな人と俺の問題なんです。

どう思っているかは内緒です。

そんな言葉に何かを含ませて笑ったお兄ちゃんの顔のせいで
昼間っから横で無防備に寝る婚約者に
イケナイ気持ちも起こせません。

2008.06 thanks you web clap!

いつでもうちのコンラッドは陛下<ヴォルフ(笑)

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