「ユーリの一番になりたい」
「あー…平和だなー…。」
どこまでも続きそうな草原のシートの上で俺は寝転がって空を仰いでいた。
隣ではグレタが摘んできた花で冠を作っている。
目が合うとグレタは待っててね、と可愛らしく微笑んだ。
親バカ丸出しの顔で微笑み返した俺は腹筋を使って起き上がり
乱れてしまった後頭部を撫で付ける。
宮廷の料理人に作って貰った家庭の味がする弁当で腹が膨れ
現在いい感じに眠気が凭れかかっているのだが、
すぐまた学校へ帰ってしまう娘との時間を無駄にするわけにはいかない。
小さな手が花の冠を作っているのを見ているだけでも寝ているのとでは随分違う。
「グレターここ座らない?」
「ユーリは抱っこが好きだね。」
「大人になったら出来なくなるから今のうちにな。」
「グレタ、大きくなったらユーリと踊って最後はお姫様抱っこして貰いたいなー。」
「よろけない様に鍛えとくよ。」
「そんなに重くならないもん。」
膝の間を叩くと未だ反抗期が訪れていないグレタはすんなりと俺の懐に納まった。
訪れて欲しいようで訪れて欲しくない未来に、俺達は再び笑う。
サインばかりの毎日の潤いだ。肩の凝りがひくのは気のせいではない。
だが俺はその笑いをふと収めてシートの上の他の住人を見やって溜息を吐いた。
「ヴォルフーいい加減に機嫌治せよー。」
そこにはエメラルドグリーンの瞳を不機嫌そうに細め眉間に皺を寄せる天使が居る。
ヴォルフラムは怒った顔が一番可愛いが、残念ながら怒った顔と不機嫌な顔は違う。
その視線の先からコンラッドは俺に向かって申し訳なさそうに苦笑した。
「何故家族団欒にコイツがついてくるんだ。」
「陛下だけならヴォルフ一人でと任せるんだがグレタも一緒で遠出はね、何が起こるか分からないから。」
そう、ヴォルフは俺、自分、グレタ、の父二人娘一人の家族ピクニックに
俺の名付け親=自分の兄一人が混じっている事が納得出来ないのだ。
「二人居たって僕一人で充分だ。それに、ユーリはグレタに何か起ころうもんなら間違いなく上様化する。」
「それは否定しねーけど上様化したあとはぶっ倒れるぞ。」
「婚約者の僕が膝枕をして介抱すればいいのだろう。」
「グレタもユーリを介抱してあげるよ。」
ふん、と胸を反らせた可愛くないヴォルフラムと対称的に
グレタは手を空に向かって元気一杯挙げた。
無邪気に名乗りを上げたグレタをコンラッドが優しく嗜める。
「上様になるのも大変なんだよグレタ。」
「そーそー、アレやるとダルくて仕方ねぇんだからな。」
「そうなの?ユーリが大変なら仕方ないかぁ。」
「娘の為に身体を張ろうという根性はないのかユーリ!」
胡坐でドン、と水筒のふたをシートに置くヴォルフラムは顔は
天使なのに酔っ払いのおっさんのようだった。
ただ振る舞いはおっさんでも今のヴォルフは怒っているので顔は可愛い。
「あるよ、あるけどさ。それより元から危険を少なくして来る方がいいだろ。」
「ヴォルフ、グレタはコンラッドが一緒でもいいよ。グウェンでもギュンターでもアニシナでも。たくさんで来た方がお弁当も美味しいもん。」
婚約者に正論、娘に清い精神の清論で返されたヴォルフはまたむっつりと顔を顰めた。
グレタの手前、コンラッドに大っぴらに食ってかかれないのだ。
「すまないなヴォルフ。俺のことは空気だとでも思ってくれ。」
「ふん、お前が空気だとしたら僕は何かしらの中毒で倒れる。」
「有毒ガスかよ。空気ってまんまの意味じゃないから。」
「そんなことは僕だって分かっている!ユーリ!お前はコンラートに甘過ぎるぞ!」
「甘くないよなーグレター。」
「うん。ユーリは皆に優しいもん。」
「グレタには特別優しいけどね。」
「本当?」
「そりゃあ娘だから。」
後ろから脇腹をくすぐり、俺がグレタと仲良く戯れると天使はいよいよ頬を膨らませ
最高に可愛い顔で立ち上がった。
「僕は他の者と同じ扱いだと言うのか!この浮気者!!」
いつもの台詞が出たところでグレタと顔を見合わせる。
片方の父親の怒鳴り声などグレタはもう慣れっこなようだ。
ぶっちゃけ、それってどうかと思うんですけど。
「んなこと言ってねーだろー。」
「ユーリは照れ屋だからヴォルフも特別って言いたくても言えないんだよ。」
「いやそれも違うんだけど…。」
「なにぃ!!」
襟首掴まれてほっとするって
俺も大分キてるよな。
キレイな顔に詰め寄られて、俺はそれを押し返す。
いつかヴォルフは「ユーリの一番になりたい」って言ったけど
それは俺の台詞だと思うんですよね。
俺とグレタよりコンラッドの存在が気になって仕方ないわけだろ?
悪態吐いたってブラコンはブラコンだっつーの。
コンラッドが居ると俺なんてどうでもよくて
照れ隠しの不機嫌な顔作るのに一杯一杯なんだろ。
俺の方が絶対的に、ヴォルフの一番になりたい。
この激しい婚約者の前でそう言うときは
結婚を決意したときだ。
2008.02 thanks you web clap!
ヴォルフよりユーリの方が愛が大きいといい。
ロイヤルファミリーが大好きです。
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