lucky charm - お守り


グリ江のファッションショーの時間を親友救済に費やしてしまった村田健は
何か埋め合わせを、と頭を捻らせていた。
ファッションショーを潰した代価にはアクセサリー等でいいだろうか?
この国での流行が分かればいいのだが、生憎眞魔国には新聞の他に
情報を得る手段がない。
城下に行くにも護衛をつけなければならない上に人の出入りの少ない
眞王廟で生活している彼は完全に俗世と切り離されている。
頭に浮かんだ化石という単語を溜息と一緒に丸めて捨てた彼は
情報収集に廊下を歩いていた巫女に声をかけた。

「ねぇ、今眞魔国の女性の中では何が流行ってるの?」
「今ですか?今でしたらチャッキー人形ですわ。」

包丁持った呪いの?
魔王陛下も突っ込めない古い映画を思い出した彼は
イメージと違う小さな手編みの人形にずれていない眼鏡を上げて直した。
何人かの巫女が持ち歩いていたチャッキー人形は
地球でも一昔前に流行ったブドゥー人形と似ている。
髪が生えていたり服を着ていたりは作り手のアレンジらしい。
これぐらいの物の方が彼女(基本的には彼)も恐縮しなくていいかもしれない。

「可愛いね、色でなんか変わったりするのかな?」
「青が健康、赤が勝負事、桃色は恋愛だったかと…他の物は分かりません。」
「君のオレンジはなに?」
「ふふ、やっぱり猊下はこのお色が気になりまして?」
「ヨザックとかヨザックとかヨザックとか気にしてないからね。」

朗らかに笑って肯定する彼に巫女も楽しそうに笑い
手の中の人形を包むように握りこんで瞳を閉じた。
「この色は“守護”を意味しております。」
その姿がいつもの彼女ではなくとても尊い存在に見えて
失う悲しみを記憶している村田は一瞬戸惑った。
「…巫女さんって実は兵士とこっそり付き合ったりとかしてんの?」
「いいえ。家族や、この国の全てに眞王陛下のご加護がありますようにと。」
全てが愛しいという微笑みに、村田はそれ以上を聞かなかった。
選ばれる前は、誓う前には、誰かと想いを通わせていたのかもしれない。
だがそれは聞くべきではない。
「それって城下で売ってるの?人気あって手に入らないーとかない?」
「これはドリアが作ったものです。」
「血盟城のメイドさんの?上手いもんだねー。」
「頼めば服や髪もつけて下さいますのよ。」
「アレンジもありか…よーし、僕ドリアに習って来よう。」
ぽん、と手を叩く古典的決意よりもその言葉に驚いた巫女は
自分達では出来ない恋の力に顔を見合わせて眩しそうに笑った。
「まぁ、猊下自らお作りに?」
「男性は恋人の手作りに弱いんだよ。受け取るときは女性だろうけど。」



「猊下この真っ黒い人形はもしかして手作りチャッキーですか!?」
「そう、僕の手作り。大賢者運が上がる。」
「大賢者運?」
「そう、大賢者運が。嬉しいだろ?」
「はい!私の幸せは猊下そのものですもの!」
「それね、地球風にアレンジして僕の下の毛入れてあるから。」
「!!!!」
「よく効くよー、大賢者運に。」

数日後、自分が作ったときより糸が緩んでいる真っ黒チャッキーに
村田健は腹を抱えて笑い自分のオレンジチャッキーとそれを交換した。

2007.07 thanks you web clap!

お守りを渡したいけど、重くでなく普通に渡したい猊下なのです。
そしてこういう悪い冗談で誤魔化すタイプ。

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