vicious circle - 悪循環
執務を抜け出す、仕事が溜まる、缶詰め、限界点突破、執務を抜け出す。
という毎日に身を投じている魔王陛下の悪循環を断ち切っているのは
お庭番の恋人の大賢者である。
彼はしばしば魔王の溜まった仕事を引き受け、跡形もなくしていた。
長い溜息と共に椅子を引き、ソファーで繕いものをしているヨザックの首に
村田は後ろから巻きついた。
「終わった。」
「はい、お疲れ様でした。」
ぽん、と頭のてっぺんに掌が置かれる。
しばしその温かさを感じてから顔を上げ、村田はヨザックの横っ面にキスをした。
ソファーの背もたれに腹を乗せて身を乗り出し唇も捕まえる。
浮かせた片足を揺らしながらキスを続け
ヨザックの手が頚動脈を捉えると彼は顔を放し真剣な顔で言った。
「…ヨザ、イチャイチャしよう。」
「はははは。」
「笑うなよ。僕は何気に君のファッションショーが大好きなんだぞ。」
「いつも大喜びで手ぇ叩いて下さいますもんねぇ。下品な声援と共に。」
「爆笑と感動の嵐だよ。なんかもうホント、普通にグリ江ちゃんのファン。」
溜息交じりの声と共に弱々しく微笑む村田の髪を
今度は重さが伝わるように撫でつけヨザックも苦笑いをした。
「そんなにお疲れになるなら坊ちゃんの仕事持って帰らなけりゃいいでしょうよ。」
「渋谷はたまに息抜かせないともっと酷い事になるんだって。」
「猊下がそうして片付けて下さるから陛下は遊びに行ってしまうのでは?」
「痛いとこ突くね。正直それもあるとは思うよ。」
「分かってるならどうしてグリ江の新しいドレスのお披露目会を潰すの?」
きちんと約束していたハズよ?
今日はグリ江に付き合って下さるって。
メイクをしていなくともわざとらしく唇を尖らせるヨザックは可愛い。
この可愛い年上の恋人を蔑ろにしてまで何故渋谷を助けるのかって
そりゃあねぇ。
尖らせた唇にちょん、と小突くようなキスをして
村田は無邪気であどけない笑みを浮かべた。
「渋谷が僕にありがとう村田ーって言うときの顔がかっわいいからさ。」
「なにそれ酷ぉい!」
「僕もうっかりうんうん、いいよ、任せときなってデレデレに。」
「他の相手の惚気なんて聞きたくないわん!」
「ほおら渋谷!ムラケンが居ればオールオーケーだろ!!」
ぐっと立てられた親指にヨザックが噛み付いた。
大袈裟にリアクションを返す大賢者様の空元気に
結局グリ江はファッションショーを諦めて彼を抱き締めて癒してやるのだ。
執務を抜け出す、仕事が溜まる、缶詰め、限界点突破、執務を抜け出す。
の間に大賢者が仕事を片付ける、が入り魔王の危機感が薄れる、たるむ。
そしてまた彼は執務を抜け出し、仕事を溜める。
村田健の断ち切る一時凌ぎより、彼自身も歯車になっている悪循環を
まずはどうにかした方がよい。
2007.07 thanks you web clap!
仕方ないけどなんだかなー想いつつ、やっぱりと許してしまう。
それが村田とヨザックの中の悪循環。
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