センチメンタル


血盟城からの帰り道、僕とヨザックは別れ際にキスをするようになった。

初めてキスをした日は巫女さんに会うのが妙に気恥ずかしく
寝台に入ってもふわふわと浮いた気分が続いて眠れない夜を過ごしたが
ここ最近は幸せの溜息を吐いて安眠出来るまでになった。

ヨザックが僕を抱き締めて、僕も抱き締め返す。
彼の匂いに包まれていると少し胸が高まって、でも安心する。
キスのタイミングも雰囲気で分かるようになった。

「…。」
「…もっかい。」
「ん。」
ゆっくりと顔が離れていく途中で、ヨザックがもう一度僕を追いかけて口付ける。
「猊下、大分キスに慣れましたね。」
嬉しそうな顔をするヨザックにどんな顔をして何を言えばいいのか
ちょっと迷って、肯定してとりあえず笑ってみせた。
幸せそうな表情のまままた近付いてくる唇に瞳を閉じる。
唇と唇が触れるだけなのになんでこんな気持ちいいんだろう。
だが流石にいつ呼吸をしようかというぺースで口付けられると困る。
鬱陶しい、とヨザックの顔に手を当てて押しのけた。
「ちょ、もういいだろ。」
「えー。私は一晩中猊下と口付けしてたいわん。」
「女の子がそんな誘うような…。」
抗議の途中で顔を寄せられて口を紡ぐ。
チュッと触れられたあとに目を開くとヨザックが面白そうに笑っていて
僕は眉間に皺を寄せた。
「なに。」
「いや…猊下って、嫌って言っても顔近づけるとぎゅって目ぇ瞑っちゃうんですよね…。」
「!」
「可愛い…条件反射…。」
段々と肩を震わせ笑いを深くしていくヨザックに対し
経験のなさを逆手に取られ軽く調教された気分の僕は熱くなった顔のまま
その腕から逃れようと必死でもがいた。
「逃げないで下さいよー。」
「男がそんな恥ずかしい様を指摘されて逃げずに居られるものか!」
「いいじゃないですかー俺にとっちゃ微笑ましい以外の何者でもありません、よっ。」
「………うわっ本当に瞑っちゃうよ!何コレ!!」
確かに、顔を近づけられたら目を瞑る癖がついていた。
分かっていたのに瞑ってしまう、そしてキスされる。そんな阿呆な。
もう逃げるより自分への驚愕が勝った僕にヨザックは満足気に目を細めた。
「かーわいい。」
額を撫でるように前髪を分けられ、輪郭をなぞる相手の表情が
近くの眞王廟と月明りのせいだけではなく色を変えたことに気付き
今度は意識させるようにゆっくりと降りてくる唇に顔を背けた。
心地良かった胸の高鳴りが期待で大きくなってくる。
「ウルリーケも心配するし。」
一応の抵抗は礼儀というかなんというか。
日本人の奥ゆかしさを無意識に発揮してみたというか。
その方が男はそそるだろうなぁとかいう計算、なんて出来ないけど
腰に手を回され、見上げると案の定唇が降りてくた。
抵抗も最初の一度だけで結局目を瞑ってしまった僕は
啄ばまれるようなキスに、僅か期待した。
キスは本当はどういうものなのかは知っているがどうやってそこに行き着くかは
ヨザックと僕だけの順序がある筈で、記憶にはない。
「猊下。」
「ん…なに…?」

「ちょっと口開けて下さい。」

吐息が生暖かくかかってまだ口付けしかしていないのに
大層いやらしいことをしている気になってきた。
君はいつも僕に意味を悟らせてからコトに及ぼうとするよね。
そんなの、僕に唇合わせたまま君が開いてくれれば僕のだって自然と開くし
舌なんて簡単に入れられるじゃないか。
わざわざ僕に口を開けさせるなんて悪趣味だ。
しかしこんな場面で逃げては男が廃る。
唇を開くと素早く相手の唇が合わさり変な感触の物が入り込んできた。
舌しかないんだろうけど、思ったより冷たく感じたそれに顔を顰め
離れようとしたが顎を掴まれて自分の舌を絡め取られた。
気持ち悪い。これは何が気持ちいいんだろう。
口の中を嘗め回される感覚は不快なだけで記憶や漫画にあるほど
うっとりしないぞ。

「う…っ。」
「眉間に皺寄せて…。」
「気持ちよくないんだけど。」
「アンタって、本当に何にも知らないんですねぇ…メチャクチャにしてやりたいわん。」
「…っん、んうっ…。」

気持ちよくないと言っているのに、舌を絡ませられ逃げれば吸われ
歯列の裏をなぞられて途中咳き込みそうになりながら
無理矢理続けられるキスに頭の中がぐるぐると回ってくる。
交わる行為がリアル過ぎて気持ち悪いと思うのか。
冷たいと感じたヨザックの舌が熱いと感じ始めた辺りから
僕は必死に自分の中の何かを保とうするようになった。

「気持ちよくなってきたでしょう?」
囁く声が脳で響いて疼く。
人とは欲が深いもので、キスが気持ちよくなったら
その先の気持ちいいのも体験したくなるものだ。
首に腕を回して引き寄せ自分の舌を相手の口の中にねじ込み
無茶苦茶に動かす。
自分の鼓動が耳元で煩く聞こえ、熱い息遣いもお互いを煽った。

「猊下…お部屋に行きましょう。」

背中を興奮が駆け上がって
霧のかかった頭で頷いた。





2007.07.29

キリ番作品の続きを書くなという話!!