センチメンタル


火がついた僕は頬染めてベッドで相手を待ったり
くたくたに融けた頭でぼんやりと君に身を委ねたりはしない。
何故なら、村田健は若さ溢れる男子だからだ。

首に腕を回し引き寄せ唇にがっつくとヨザックは意外そうにして一瞬顔を引いた。
この期に及んで僕が貴人ではなかったことに幻滅なんてするんじゃないぞ。
キスをしながらヨザックのベルトに手をかけたがそれは止められ
押し倒された僕は手首をシーツに縫いつけられた。
「うかうかしてるとコッチが喰われちまうわけですね。」
詰襟にかかった手に思わず手をかけたのは君と同じ理由ではない。
脱がされるとなったら恥ずかしくて咄嗟にそうしてしまったのだ。
触れた温もりで我に返り君の手を離し、近くのシーツを黙って掴む。
ゆっくりと首筋を舐め上げられ、肌蹴られた胸に手を這わされても
僕はまだ声を上げる事は出来なくてシーツに頬を押し付けて
ただ呼吸を繰り返す。
「初めてって、本当に何も感じないんだね。」
「鳥肌が経ってる。」
「寒いんだよ。中途半端に胸だけ開けられて。」
黒衣と白いワイシャツは脱がされることなく肌蹴られているだけ。
ヨザックの掌が触れていない場所が寒いと訴えると
彼は徐に自らの上半身を曝け出した。
暇潰しにもなる大胸筋が憎い。
服から腕を抜かれ、上半身だけ剥かれたあと
分かってはいたけれどコンプレックスを刺激される身体が倒れてきて
僕の身体にぴったりと合わせられた。
熱さと心地良さにゾクッとしてすり合わせるように身じろく。
その際に互いの乳首が擦れて驚きと恥ずかしさに色気のない声を上げてしまった。
「わっ、御免。」
「…猊下、初々しさを天然で余すことなく振りまくのはやめましょうや。」
「そんなつもりじゃなかったんだよ。」
「分かってますけど、俺の理性ってやつがねー?」
「なんかすごい硬いのが…。」
「硬いとか、そういうのも、アンタの声だと卑猥過ぎなんですよ。」
「……く…っ。」
熱い固まりが僕の熱に押し付けられ揺さぶられる。
布越しに擦れて、疼くように広がる曖昧な快楽でも
経験値の低い僕にはもっと、と追い求めたくなるもので
自分も腰をヨザに擦りつけた。
素肌が触れ合った胸は離したくないし、腰は擦り合わせたいし
どっちも取ろうとするとおかしな感じになってしまう。
「猊下落ち着いて、ちゃんと触ってあげますから。」
「落ち着けって、最初にしたのは君じゃないかー。」
「んーちょっと悪戯?慣れてない猊下が可愛くって色々したくなっちゃうの。」
「うわっ。」
「…元気一杯。」
ズボン諸共下ろされた下着から若さ溢れる自分が曝け出されて
余裕のなさを言葉にされた僕は顔に血が上った。
こんなことしてるんだから見られるのは当たり前で
見ないでくれと言う方が横暴だと分かっていても
恥ずかしいから見ないで欲しい、早く終わってくれればいいのにと
ギュッと目を瞑った。
「ダメだ俺、止まれねぇ…。」
「は?なに?」
「すいません猊下。」
「!!………っだ、…う…ッ。」

腰に当たったら柔らかな髪にまさかと思ったが遅かった。
突然に熱く滑った感触に包まれ背中が跳ね上がった。
あまりの快楽にオレンジの髪を掴んで引き剥がそうとしたが
嫌らしい水音も強すぎる刺激も全く阻止する事が出来ない。
舐めまわし、搾り取りながら扱かれる。
心拍数が上がり身体中が心臓になって息を吸って吐くことさえ難しい。
「っ、あ、あ…っん、う…く、や、だっ…ヨザ。」
舌先を鈴口の穴に突っ込まれ揺すられると精液が溢れてくるのが
自分でも解ってイヤだという否定の台詞が混じる。
それがヨザックを煽るのだと分かっているが、
揺れてしまう腰も、自分の股間に彼の頭を押し付ける手も
引き攣った声も、乱れる呼吸も、恥ずかしいのに止められない。
ふいに、熱い息を漏らしながらも行為を続け
黙々と自分を暴き続ける対照的な相手との温度差が怖くなった。
「ヨザ、ヨザ……ヨザ…ッ。」
「…猊下?」
「ヨザ…。」
懸命に呼び続けてようやく声が聞こえた。
といくらか安心してじわりと涙が滲む。
でもまだ足りなくて、ヨザックの髪を引っ張る。
涙目の僕を見てヨザックは慌てたように頬を撫で目の端に親指を当てた。
「ヨザ…呼んだら、返しなよ。」
「不安になっちゃいました?」
「僕だけ声出して悔しいだろ。」
怖くなったというのは男としてどうしても認めたくなかったので
嘘ではない理由を投げつけて一粒だけ涙を零した。
すん、と鼻を啜ってなんかちょっと反省しているヨザに抱きつく。
素肌の気持ち良さは厭らしくなくて熱くて気持ちがいい。
息を吐いて肩に額をすり寄せて笑った。
セックスって凄いカッコ悪いんだなぁ。
100歳を越えてるヨザが必死ってどうなんだろう。
カッコ悪くていいなぁ。
「俺も悔しいです…大人なのに全然余裕ないなんてー。」
「ヨザ。」
「猊下ー笑わないで下さいよー。」
「へへ。」
「そんでもって泣かないで下さいよー。」
「ヨザ。」
「はい。」



「自分で止めといてなんだけど、辛いから早いとこイカせてくれる?」



そのあと僕もヨザックを襲おうと果敢に挑んだが
情けない顔で勘弁してくれと言われて渋々身を引いてやった。
風呂から出てもまだその顔でベッドの上で正座していたので
後ろから蹴っ飛ばして抱きついた。
「もうやめて!お風呂上りに抱きつくなんて!」
何でグリ江ちゃん?というツッコミを飲み込んで
悶々としているヨザックの横に仰向けに倒れて見上げる。
僕から目を反らす君の葛藤の横で無神経に無防備を晒す。
「何で迷ってんの?」
分かってるクセにという目が一度降り注がれたけど
言葉にさせたくて無視。
「大切にしたいけど無茶苦茶にしたいの!」
「わーっ究極だね!頑張って!」
「そんなケタケタ楽しそうにー!!」
「大切にしながら無茶苦茶にすればー?」
「そんな起用に出来るわけない!グリ江不器用だもん!」
「うん。不器用だね。」

本当は器用な君の手が僕に触れると不器用になる。
それは僕も同じで、あまりにも稚拙に君の人差し指だけを握る自分に
自分で驚いて気恥ずかしくなりながらも笑った。

「なんでそんな可愛いことするのよー。」
「分かんないよーおっもしろいねぇ。」
「さっきまでおっかなびっくりしてた癖にー。」
「僕はさー可愛くない事に凄く柔軟性があるんだよねー。」
「一度抜かれたぐらいでいい気になんないで!」
「君こそ一度余裕なかったぐらいで落ち込むなよー。」

恋の音に唸り声も含まれるのか。
4000年の記憶から知っていたはずの恋の不器用さを
ようやくちゃんと知った気がした。
ぎゅってしてやりたいけどヨザックには拷問だよなぁ。
人差し指を握る手に少しだけ力を込めて窓の外の月を見やって
早く、ちゃんと最後までセックスしたいなぁと男らしく思った。



END

2007.07.29

あんまり盛り上がらずに、でも盛り上がってく村田を目指したいのですが惨敗しました。
おっかなびっくりだったりがっついたり、したいけど咄嗟に抵抗したり
冷静だったりそうじゃなかったり。
落ち着かない村田をこれから表現出来るようになれればと思います。
ただこの文にはこの文で、今しか出来ない私自身の不器用さが出たと思いますので
恥ずかしながら…晒させて頂きます…!!!
恥ずかしいことを晒すとやべぇ頑張んなきゃと思うんだよね私!(笑)