渋谷勝利の憂鬱


ゆーちゃんは俺推薦のゲームを正しい方法で楽しんでくれているだろうか。
弟の可愛さに気が済むまで悶え続けた俺は、隣の部屋の妙な静けさにメガネを押し上げた。
ゆーちゃんでも楽しめるようにと笑いあり、アクションあり、笑いあり、笑いあり、少しのお色気あり、の
悪代官3を貸してやったのに全く笑い声が聞こえない。
弟のお友達の操る悪代官が町娘に襲い掛かって帯を巻き取る横で、
やめてくれと顔を真っ赤にして叫ぶ純情なゆーちゃんの声も聞こえない。
それがなければ当然、何て物を貸して寄こすんだとお兄ちゃんの部屋に怒鳴り込んでくるイベントも発生しない。
一体何をやってるんだゆーちゃん、俺はきちんとフラグが立つアイテムを渡しただろう。
物音一つしない弟の部屋が気になりついに立ち上がる。
ノックをしないのは「もう!ノックしてって言ったでしょ!」という反応を期待しているからだ。
 
「おいゆーちゃん……!?」

俺がそこで見てはいけない物を見てしまった。
俺の可愛いゆーちゃんが、お友達と一緒にベッドインしている。
しかも、ゆーちゃんがお友達を抱き締めている。
そんなバカな!ゆーちゃんは抱き締められる側がお似合いなんじゃないのか!?
二人を起こさないようにそっと忍び寄る。
10分前にゲームと言っていた二人が何故このようなことになるのか。
 
「村田ーってあれ?寝てんのか?むーらーたー。」
「……ぅん…。」
「っ!!///」
  
なんだろう、俺、なんか今すげードキドキした。

そしてゆーちゃんは弟のお友達の頬に手を沿え…

「だああああッ!!!有り得ない!ゆーちゃんにそんな度胸はない!(小声)」
ぶるぶると首を振り、俺は携帯の音が出る部分を指で押さえて写真を撮った。
それをフォルダに保存し、もう一枚をどの角度から撮ろうか考えた。
ゆーちゃんからでないとするなら弟のお友達が?

「渋谷ー、僕眠くなっちゃったー。」
「うお!俺まで引きずり込むな…あ…///」
「顔真っ赤だねー僕に乗っかってドキドキしちゃった?」
「煩い!」
「むがっ!」
「ほら!寝るんだろ!もう黙ってろ!///」
「渋谷…あったかい。」

「ぬわぁああッ!!!羨ましくない!全然羨ましくない!(小声)」
弟のお友達の無邪気に見せかけた誘いにゆーちゃんは乗ってしまったと!?
黙らせる為という名目でお友達を抱き締めたと!?
二度目の写真でゆーちゃんが身じろぎ俺は硬直した。
 
「村田…。」
 
どういう感情か分からない声で腕の中のお友達を呼んで抱き寄せなおしている。
お友達はされるがままゆーちゃんの腕の中で安眠を貪り続けていた。
 これは、やはりゆーちゃんから?

「む、村田!その…っセックスしようぜ!!」
「は?渋谷、何言ってるのさ?」
「お前が好きなんだよ!お前だって俺のこと!」
「あっだ、だめだよ渋谷!嫌だってば!!」
「……ッ……………ごめん。」
「…何の準備もしてないのに無理だろ?だから今日は、さ…。」

添い寝ぐらいで許してくれない?
 
「ゆーちゃぁん!ゆーちゃんには添い寝だってまだ早い!!(小声)」
弟のお友達が俺の声に反応しころりと身体を反転させようとする。
が、ゆーちゃんの腕にしっかりと身体を固定されていてそれは叶わなかった。
眠りながらに眉を顰め身じろいでいるがゆーちゃんの腕は外れない。

「ゃ…アツイ…。」

弟のお友達ぃぃい!!!!
お前はそのいやらしい声と顔でゆーちゃんをたらしこんだのか!
そして俺をもたらしこもうと言うのか!
汗をかきながらも抱き締める事を止めないゆーちゃんもゆーちゃんだ!
そんなにお友達を放したくないのか!
お兄ちゃんにはそんな風にしてくれたことないのに!
なんて奴らだ!お兄ちゃんは哀しい!! 

嗚呼でもぶっちゃけ…弟とそのお友達の間で眠りたい。

両手に男子高校生。
渋谷勝利は今日も確実に人として堕ちていた。



END

2007.08.28

村田さんも寝ちゃったということで(笑)有利は無意識に締め付けると思うんですよねー。

*悪代官とはプレイヤーが悪代官になり水戸黄門・丹下作膳などのヒーローに
 トラップを仕掛け返り討ちにする素敵なゲームです。
 ミニゲームの中に町娘をとっつかまえて帯を解くというものがあります。