「期待してもいい?」


「いらっしゃいませー。」
「かたじけない。」
「あはは、勝利さん目が本気だ。」
今日の俺にはムラケンの家が物凄く輝いて見えた。
5.1サウンド環境をこんなに身近で借りられるとは。
持つべきモノは金持ちの知り合いだ。

知り合いと言うか、恋人だが。

「こういうものが家にあるならもっと早く言えよ。」
「僕あんまり使わないし、突然言ったら自慢したいみたいで嫌じゃないですか。」
滅多に帰って来ない父親の趣味が映画鑑賞だそうだ。
価値の分からない息子はこの部屋を持て余していると、なんて勿体無い。
「勝手に入ってもいいのか?」
「新作が出る度にメールが送られてくるんで、使っていいんじゃないですかね?」
「映画英才教育…俺もそっちなら孝行が出来たかもしれん。」
「勝利さんはこれから都知事になって孝行するんでしょー。」
部屋の電気を点け、リモコンを机に出すとムラケンがふわーっとどこかへ去った。
いつもは一言言ってから退室するムラケンしか知らないので少し違和感を覚え
今更ここはムラケンの家なんだと実感する。
俺はいそいそとDVDを取り出す。
ムラケンの父親のDVDの中に「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」があった。
…猛烈にオヤジさんと話してみたい。
あれの良さをアニメだからと排除することなく受け止め評価してくれるなんて
真の映画オタクに違いない。
「はい、飲み物持ってきたみたいですから勝利さんはコップだけ。」
「お、おう!悪いな!」
「どうしたんですか?」
「いいや何も!」
ひょいっと戻って来た村田に俺はビクーッと現実に戻って来た。
ムラケンの親父さんと話してみたいなんて。
うっかりコイツと付き合っていることがバレたら話どころではないだろう。
お義父さん、俺は本気で健君を、なんて修羅場はゲームで見るだけで充分だ。
村田は空のグラスと自分用の水を持って帰ってきた。
こういうとき台拭きも一緒に持ってくるのが育った環境の違いを思わせる。
ゆーちゃんだったら絶対に、水滴に気付いてから持って来るか
部屋にあるティッシュで拭くか自然乾燥かだ。
ソファーに置かせて貰っていた俺の荷物を少し脇に寄せて
ムラケンは俺の隣に腰掛けた。
「お前も見るのか?ガンダムだぞ?」
「ん?いい話なんでしょ?」
「…あぁ。まぁ、少なくとも俺はそう思ってる。」
「もしかしてファーストから見てないと分からないヤツですか?」
「いや。」
映画英才教育はあまり成功していないようだが、コイツにも
俺の家と同じく村田家思想があるようだ。
いい物に偏見は持たないと。
「あれ?」
「…。」
「これ何ですか?」

ムラケンの頭を撫でてみた。

「いい子いい子だ。見終わったあとに好きだと思ったキャラを言え、俺と被ってたら…」

キスしてやる。
とは、この部屋では言い辛かったが聡くてムカつく恋人は笑った。
「期待して観ようっと。」

そして村田が再生を押す。

バカヤロウ、ここは俺に凭れかかって甘える空気だろう。
作品を見るときは周りの迷惑にならないように。
映画英才教育がうっすら成功している村田の肩を
抱き寄せようかどうしようか迷って、アイキャッチまで待って抱き寄せた。



2008.06 thanks you web clap!

村田の今まであまり触れてこなかった“誰かに育てられた感”を
少しだけ愛しく思う話、にしたかった(泣)
例え観ている物がガンダムでも、抱き寄せてしまえ。
ちなみに私の中では08小隊ね。

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