「子供好きでしょ?」
「グウェンダル、貴方子供好きでしょ?」
自分の部屋に入ってくるなり仁王立ちしてそう言ったアニシナに
グウェンダルは眉間に皺を寄せ直しながらも頷いた。
彼女が唐突なのは今に始まったことではない。
それに子供好きというのは本当だ。
「あぁ、それが何だ。」
「自分の子供が欲しいとは思いませんか。」
「自分の…。」
他人の子でもあれだけ可愛いのだ。自分の子供だったらどれだけ可愛いのだろう。
確かに欲しい。欲しいが相手の居ない今はどこにもそれを望めない。
強いて言うなら目の前のアニシナだが彼女は
結婚を墓場と言う極端な女性だ。
「欲しいことは欲しいが…。」
「では私と結婚しましょう。」
「…は。」
言われた言葉の真意が理解出来ずグウェンダルは口から零れた一音を
疑問系にすることも叶わなかった。
自分の鼓膜を信頼するなら、腰に手を当てふんぞり返るアニシナが
自分に求婚した事になる。
「な、何故だ。」
思わず何の捻りもない言葉で返してしまった。
彼としては小さくて可愛くて幼い頃から共に歩んできたアニシナに
求婚されるのは迷惑ではなく、むしろかなり喜ばしい。
例え尻に敷かれたとしてもそんなモノは今更だ。
「私は子供を持つ女性にも望めば仕事をといつも考えています。しかし、私自身子供を持つ身ではありませんのでどうにも感覚が掴めないのです。子を産んだ者の苦労は子を産んだ者にしか分からないと思いませんか?」
「…それで俺との間に子供を?」
グウェンダルは眉を潜めた。子供とは自分の研究材料の為に作るものではない。
そんなエゴをアニシナが自分と子供に押し付けるとは思えないのだが
やはり耳に入る言葉の不快さは拭いきれない。
「勿論結婚する以上はヴォルテールに嫁ぎましょう。ただし、家事育児は分担制、子供に利害関係の一致で結婚したなどとは言いません。」
「…いいだろう。」
眉間に盛大な皺を寄せながらも頷いた彼に秘書は困ったように
視線を交互に彷徨わせた。
アニシナはニヤリと笑って水色の目を煌かせる。
「交渉成立ですね?では式の日取りを決めましょう。」
「アニシナ、1つ言ってもいいか。」
「なんです?披露宴の席をデンシャムに売るなというのは私も心得ておりますよ。」
「忘れるな。俺は子供は好きだがお前も好きだ。」
言い切られた一言に瞬きをする。
重低音の言葉は何の飾り気も優しさも含んでいなかったが
二人の間でもう確認しなくてもよいそれを口に出した事実にアニシナは目を細める。
「…それを確認するのが鬱陶しいから名目を立ててやったのでしょう。」
小さくて可愛い彼女の花嫁姿が早く見たい。
2008.02 thanks you web clap!
驚いたけど、アニシナの強がりだって気付いたら
破天荒な台詞も可愛くなるよ。
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