お嫁さんは可愛くてカッコいい。



円満の黄金比



ヨザックはその日、村田よりも早く目を覚ました。
二人は1つのベッドに入っているが村田がヨザックの腕の中に
朝まで大人しく収まっていない事は珍しくない。
熱い、と無意識に寝返りで離れられたりすることが主だ。
ヨザックは後頭部しか見えない村田を少し離れた位置に確認すると
その僅かな差を埋め、本来とは違う色に染められている髪に触れた。
村田の寝顔は可愛い。
毎日飽きるほど見ているが、いつまで経ってもこの寝顔は可愛い。
起きる時間が近いせいもあってか、何度か撫でた所で
村田は子供がむずがるような声を出して顔を顰め、ヨザックの居る側に寝返りを打った。
村田の右手がシーツを滑りヨザックを探す。
それに気付いたヨザックはわざとそれを避け、彼の手から逃れてみせる。
眠りながらに距離が足りない、と思ったのか村田はうつ伏せのまま
ベッドを少しだけ横に這ってまた手だけでヨザックを探し始めた。
これは可愛い。非常に可愛い。
面白くなってきたヨザックは村田の身体をそっと跨いで反対側に移動するという
意地悪をやってのけた。
「う…?」
あまりにも見つからない旦那の存在に、村田はついに目を覚ました。
ぼんやりといつも自分の左側に居る筈のヨザックが居ないことを認識する。
ことり、と寝たまま首を傾げ数秒してから村田はゆっくりと振り返った。
「…なんで、そっちに居るの?」
寝惚け眼で舌っ足らずの声。
自分に触れようと伸ばされてくる手にヨザックは猛烈にきゅんときて
自分から彼の伸ばされた手を握った。
「アンタ寝惚けてるときほんと可愛いっすねぇ…。」
「…なんか言ってた?」
「いいえ、寝言じゃないですよ。無意識に俺を探してましたけど。」
「だっていつもこっちなのに居ないからさぁ。」
「ロビンちゃんのが先に俺の腕から出てっちゃうからでしょう?」
「知らない。なんか、暑かったんじゃん?」
握られた手をやわやわと揉まれながら村田は少しずつ覚醒していった。
旦那の声がやけに甘ったるいので自分が無意識に彼を喜ばせた事は分かったが
否定しても無駄なことを村田は知っている。
こういう雰囲気のときには素直に甘ったれておくものだ。
覚醒し始めたとは言え、まだまだ寝起きの村田はヨザックの太腿に肘から乗り上げ
そこでもう一度目を閉じた。
「まだ眠いんすか?昨日ので疲れちまいました?」
「ヨザックがなんか甘ったるいから眠い。」
「甘ったれてんのはアンタでしょうよ。」
「朝のロビンちゃんは愛を蓄えないと動き出せないんだ…ぐぐぴ…。」
「ご飯作ってあげましょうか。」
たまにはそれもいいだろう、とヨザックが提案すると村田は途端に上半身を起こした。
「いや、それは僕がする。」
「あれ…。」
お膝で甘ったれる村田に心和ませていたのにヨザックの言葉はどうやら
裏目に出てしまったようだ。
メガネを手に取りベッドから脚を下ろそうとする彼の腰を今度はヨザックが
甘えているように捕らえた。
「いいじゃないすかーたまには俺でも。」
「君は外で稼いでくるんだから家でのことは僕がする。」
「チキュウの夫はたまに家族さーびすをするって坊ちゃんはおっしゃってましたけど?」
「子育てとかして大変な奥さんにはね。僕は今のところ家事に疲れてないから。」
「ロビンちゃーん。」
男が愛しい者を甘やかしたい気持ちは同じ男として分かる。
それでも村田は譲れないのかヨザックの頬にゴメンネの気持ちを込めてキスをした。
こうなってしまうとどんなに甘い言葉をかけても村田はそれを受け入れない。
あのままもう一度寝かせてしまえばよかった。
ヨザックは仕方なく自分が甘える形で村田の温もりを引き止める事にした。
「朝のグリ江ちゃんも愛を蓄えないと動けませんのでもう少し。」
「やっぱり甘いのは君じゃないか。」
「グリ江なんて言われてもいいもん。」
「ううん、寝起きにオカマ芸は変な感じがするなぁ。」
メイクも香りもしっかり女性になっているときならその台詞にも乗ってやるが
今のヨザックは髪もボサボサで男の匂いがプンプンしている。
女性がこの寝起き姿に遭遇したら頬を染める程度には男の色気を放っているのだが
勿体無いことに、甘ったれる旦那さまは大きな犬のようだ。

それはそれで可愛いか。

大型犬という考えが気に入ったのか村田は後ろから自分を抱っこして
まったりしているヨザックの頭を撫でた。
「よしよし。いい子だね。」
「それ、旦那さんへの愛情表現すか?」
「鋭いね。流石諜報員。」
抱っこされたまま後ろを振り返り、村田は分かりやすいように
わしゃわしゃと髪をかき回した。
目を瞑ってされるがままになっているヨザックは本当に大型犬のようで可愛い。
「可愛いなぁ、君は。でっかいのに。」
「それ絶対にグリ江が欲しい可愛いじゃないわん。俺としてはロビンちゃんにはカッコイイと思われたいですしね。」
「駄目だよ。この家でのカッコイイ担当は僕だから。」
「お嫁さんは可愛い担当と相場が決まってますが?」
「お嫁さんが強い方が家庭は上手くいくんだって。」
撫で回していた両手でヨザックの頭を固定して村田は軽くおでこをぶつけ
彼に守られている領域から抜け出した。
ぺた…と床に裸足の足がつく音すら可愛いと言うのに
カッコイイも欲しいとは欲張りなお嫁さんだ。
強いお嫁さんはおでこにおでこをくっつけて説き伏せたりしない。

だが、男同士の結婚が許されない環境で育った彼が
お嫁さんという女側に話し合うこともなくすんなり収まってくれている状態が
自分より村田の器が大きいという事実だと思う。
価値観や概念を覆す事は容易ではないのだ。
明らかに相手の方が男前の魔王陛下はきっと婚約者に男の座を譲らないだろう。
折れるのはきっと、男前で器が大きいわがままぷーに違いない。
そう考えると顔も体格の差も関係なく、この家でのカッコイイ担当は村田だ。
村田がこの家でのカッコイイ担当、ぐらい許容出来なくては
それこそ旦那とは名ばかりの甘ったれになってしまう。

ヨザックは廊下をいく村田の可愛らしい足音に耳を傾けた。
ペタペタと可愛い響きではあるが彼は内股でちょこちょこ歩いたりはしない。
顔を洗う水の音も豪快で男らしいものだ。
ぐしゃぐしゃにされた頭を緩く撫で付けてヨザックはようやく立ち上がった。
強がりたいお嫁さんには情けない声で甘えてやるのが
家庭円満の秘訣でデキる夫というものなのだ。

強がりの彼が折れそうになったときにだけ
包容力のある男振ってこの手で抱き締めてやればいい。

パジャマにエプロンという無駄に可愛い格好の村田に抱きついて
ヨザックは朝ご飯をオムレツにしてくれるように頼んだ。



2008.09.15

相馬さま、55000HITありがとう御座いました!
リクエストは「新婚さん設定で、ほのぼの甘々なヨザケン」だったのですが…
なんとなく締りのない二人となってしまい…おおおお申し訳ありません///
一ヶ月近くお待たせしてしまってすみませんでした。
まだまだ稚拙な文しか生み出せない私ですが今後ともよろしくお願い致します。
改めまして、55000HITありがとうございました!