その位置はいかに。
これが可愛い女の子なら俺はこんな風に顔を引き攣らせたりしていない。
そうだな、これがグレタだったら俺は鼻の下を伸ばしてヨシヨシ何が欲しいんだ？
ドレスか？おもちゃか？それともケーキか？って言って財布の紐を緩めることだろう。
ただ、相手は俺と同じ年の男の、村田健。

「ユーリ、気をしっかり持って。」
コンラッドに肩を叩かれ混沌の世界から戻って来た俺は
嘆かわしいアミーゴの真の姿を取り戻そうと手を伸ばす。
「それでいいのか…男としてお前はその状況を甘んじて受け入れると言うのか！！」
「甘んじてないよ、ただ煩かったから応じてやったんだ。」
「すんませーん。目に痛いと思いますが猊下不足では報告書が書けないのでー。」
「自分で目に痛いと分かっているのか？」
「そこまで自我を失っちゃいません。」
「半分以上は失っているように見えますが、如何でしょうムラタサン。」
「元から自我がないんじゃない？面倒な燃料で動く部下だよ全く…。」

なんて言いながら燃える筋肉の温もりで村田があくびをする。
あぁ、お膝の間は冬の寒さなんて無効ですかー。
村田が執務に使う机で書類を書いているのはミスター上腕二頭筋のヨザックだ。
そして、その膝の間に座って腹に腕を回されて抱きこめられているのが村田健。
なんですかこの光景。
ヴォルフだって膝の間に座らせてくれなんて言ったことないぞ。
当然、俺も膝の間に座って下さいと言ったことはない。

「最初は膝の上だったんだ。上だよ？太腿の上に腰掛けろとこの男が。そして腕を首に回してお仕事頑張ってvVって可愛く小首を傾げて応援したりして欲しいと言われたんだ。罵倒と拳と拳と拳と拳と罵倒を要してもこの有様。さぁ渋谷、同情するなら金をくれ。」
「同情したけど手持ちがない。ってコレいつのネタだよ。俺達何歳のとき？」
「凄く小さいときかな。最近の結婚・出産で何回か見たけど。」

ワイドショーで俺達の知らない゛具が大きい゛の頃のまで流れてたな。
再びあくびをする村田の様子を気にも留めずヨザックはせっせと報告書を作成中だ。
国の状態を全て把握している村田にはその報告書の内容が分かっているのだろう。
時折、書かれていく文章を目で追い何かを納得してまた所在無く視線を彷徨わせる。
恐らく自分の執務は既に終わっているのだろう。

「で、渋谷は何しに来たわけ？」
「ん？村田がコッチに来てるって聞いたから休憩ついでになんとなく。」
「フォンクライスト卿は僕の名前出すと許す確率が高いもんね。」
「そういうこと。なぁ村田ーダメ元で聞くけどキャッチボールやんねぇ？」
「隊長が居るじゃないですかー。俺には猊下しか居ないんですよー。」
「おも…。」
「いつも俺とでは陛下もつまらないだろう。」
「そういうんじゃねーけど。男の友情を深めるにはキャッチボールだろ。」
「キャッチボールは親子の絆な気がするけど…ヨザック、渋谷を構いたいんだ。もういいだろ？」

村田が横を向いた瞬間コンラッドが俺の目を両手で覆った。
きっと子供が見ちゃいけないような変な色香を放った光景になったからだろう。
俺はそんなキレイな時代は通り越したけど、その厚意をありがたく受け取ろう。
だけどなんでかな、瞼の裏に見えないはずの光景が浮かんでいるのは。
いつも見てるせ…いいや、その謎を解明するのはやめよう。
見えてない見えてない、首に手を回して妖しげに目を光らせながら顔を覗き込んでるアミーゴの姿なんて全然浮かんでません。

「しつこい男は嫌いだよ。」
「本当ですか？しつこくすると猊下はもっとちゃんとしてって可愛くオネダリするクセに。」
「言わなきゃイジメの終わりが来ないからだろ。出すのは早いクセに。」
「挿れた途端にぎゅうぎゅう締め付るから早くナカに欲しいのかと。」
「若さが足りないって素直に言えば許してやる。」
「本気出したら猊下が壊れちゃいます。」
「すみません陛下。耳は御自分で塞いで下さいますか？」
「もう遅いよ。」
「まだ猊下をお待ちに？」
「ゴメン渋谷、今すぐに決着をつけるよ。男根を切るという手段によって。」
「待ってるから切らないであげて下さい。」
「大丈夫、きっと生えてくる。」
「ヨザにそんな特殊な能力があったとは。」
「生えてくるって言うってことはやっぱりないと困るってことで？いやーだー猊下ったら俺の息子の大ファンなんだからぁー。」
「…完全に根を絶やしてやる。」
「むーらたくーんあーそーぼー。」
「はーあーいッ！！！」
「おっと！」
「ほら出しなって、君がSに見せかけてドMなのは知ってるんだぞ。」
「俺は元よりドMだと思ってましたけど…ユーリの第一印象ではどちらでしたか？」
「えー…一番最初に見たときは女装中だったし…ストイックに筋トレをしてるなーっていう印象？」

いつの間にか、目隠しは外されていた。
おふくろさんよ。俺はもうこの光景と会話を直視出来るぐらい汚れました。
これが大人になるってことなるのでしょうか。
切なくなんてありません。渋谷有利原宿不利、婚約者アリ、隠し子一人。

職業、魔王。

おふくろさんよ、それでも志だけは真っ直ぐです。
切なくなんてありません。

陛下が最後にいつも遠い目をしているような気がします。
なんだかんだ言いながらもイチャイチャしてたことに変わりはない。