背中
背中の引っ掻き傷というのは男にとっては勲章のようなもんだ。
カリカリ、小さな爪が俺の背中を引っ掻いて甘えている。
振り返ると飴玉のような瞳がじーっと俺を見つめていた。
その後ろで、猊下は捕食者の目で俺の背中に居る小さくて可愛いモノを見ていた。
背中の子猫に指を差し出すと、額を指にすり寄せたり手を引っ掛けて甘えたりしてくる。
それを見た猊下はとうっと声を上げて小さくて可愛いモノに飛びかかった。
「めぇっ。」
「このやろーっ僕のヨザックを誘惑するなぁー!」
子猫を捕まえた猊下は俺の背中に圧し掛かる。
背中でひとしきり暴れたあと、彼等は横に転がってきた。
子猫を掲げてお楽しみの猊下は黒猫というとこだろう。
めぇめぇと鳴いて降ろして欲しがっている小さくて可愛いモノの頭を撫ぜると
猊下は身体を反転させて俺に背を向け、それを床に着地させて目を合わせた。
「その声でヨザックを垂らしこむのか泥棒猫め。」
猊下が顔を寄せると猫も目を閉じて額をすり寄せる。
尻尾を弄べば小さな前足がイヤイヤと猊下の手を叩く。
ぱっとその手を離した猊下は立ち上がり
俺と猫から距離を取って格闘家のように構えた。
「君の攻撃はもう見切った…次が最後だ…!」
双黒の姿を追ってチリン、と首の鈴を鳴らした子猫は遠くに行ってしまった猊下に興味を持続しきれず、俺を振り返り膝に乗り上がろうと前足を上げた。
すると猊下が声を上げて走り戻って来る。
「弱々しくして男の庇護欲を駆り立てようとは何てヤツ!」
俺の膝の子猫がまた猊下に捕まった。
脇の下に手を入れられた猫がめぇと先程と同じように鳴く。
ちなみに猊下は本を読んでいる俺のあぐらの脚の上に上半身を預けている。
正直、重い。
「こいつめこいつめー、そんな可愛い声と上目遣いしたって無駄なんだからなー。」
「…猊下ぁ。」
「ムラケン必殺!でこぴーん!!」
「めぇめぇ。」
「あ、この、噛んだな?ヨザックにしか噛まれたことないのに!」
「ちょっとー。重いんですけどー。」
猊下が子猫にするように脇腹を擽りながら訴えると、少年は
謝罪の言葉もなくずるずると膝から降りた。
正確には、猫に話し掛けるので手一杯で俺との会話を省いたのだ。
仰向けになって胸の辺りに子猫を乗せて“俺”争奪戦を行っている。
「…。」
「あっヨザック!僕じゃなくてソイツを取るのか!?僕たちの愛はそんなぽっと出のヤツに壊されるようなもんだったのか!?」
「めぇ。」
「勝ち誇った顔しないでくれるかな!君なんて一時の火遊びに過ぎないと思うよ!」
上から子猫を取り上げてみせると、猊下はすぐに起き上がり猫に手を伸ばした。
捕まらないように避けると、果敢にも猊下は真正面から俺に抱きついてくる。
猊下が猫だったら確実にゴロゴロと喉が鳴っているだろう。
両手を猫に塞がれている俺は勢いよく突進してくる猊下を自慢の腹筋でどうにか倒れずに受け止めた。
「分かりましたよー、返せばいいんでしょ返せばー。」
「ふん!君が何度ヨザックを奪おうと僕は必ず奪い返す!!!」
床に降ろされた子猫に再び猊下が突っかかり始めた。
俺の周りをひたすらちょこまかとじゃれ合う猊下と子猫。
どちらかと言うと猊下の方がガキくさい。
子猫は自分の、俺も自分のって貪欲ですこと。
つうか…猊下ってテンション上がると
すっっっごい鬱陶しいじゃれつき方になるんですねぇ…。
親分から頂いた子猫に猊下を取られた俺は
背中に感じた本日何度目かの重さに深い溜息を吐いた。
2007.12.08
ウザい系猊下。どこまで子供にすれば気が済むのか。
テンションがおかしくなると止まらなくなる猊下が書きたかったんですが
おかしくない部分を書かずに始まったのでこんな阿呆っ子に///
あ、これ全部ふかふかカーペットの上での出来事です。