本当はそんなんじゃない


「ねぇヨザックー…暇ぁ。」

脚の間に座って本を読む黒猫猊下が俺の肩に頭を預けた。
離れてしまった手をもう一度艶やかな髪に添えると手で払われる。
ジャンケンで負けた方は勝った方の言う事を聞く。
そう言い出したのは紛れもない猊下だ。

「ヨザックさー楽しい?」
「楽しいですよ?猊下が俺にされるがまま、キャッ。」
「はいキモい、ていうか抱き締めてるだけじゃん。」
「これが俗に言う恋人同士まったりじゃないですか。」
「飽きた。」
「他の本にします?」
「この状況が、飽・き・た!」

腕を解き、腰を浮かせて逃げようとするのを許さずに引き戻す。
ぎゅっと力を込めて後ろから被さるように抱き込むと悔しそうな唸り声が聞こえた。
普段は屁理屈を言って不利な状況を無理矢理挽回している猊下は
時折、謎のこだわりから謎のタイミングで謎の漢らしさを見せるのだ。
‘ジャンケン対決での誓い’の場合は、どうやらその謎のこだわり録に
負けたことを漢らしく認め、言うことに従いなさいと書いてあるらしい。

「たまにはいいじゃないですかー暇なら寝ていいですから。」
「まだお昼も食べてない時間に再び眠れって?生憎僕は村田でのび太じゃないんだよ。」
「誰ですかそれ、男ですか?」
「男だよ、僕と同じく黒髪で黒目でメガネでもやしっ子の。」

ただし勉強は出来ないね。

ノビタという人物が誰なのかは分からないが、適当な相槌をうって
俺は猊下の髪に頬を寄せて目を閉じる。
男だと言ったのに大袈裟に突っ込まなかった俺が面白くないと猊下は身を捩った。
本に添えられている手をとりキスをする。
軽く戯れるように繰り返していたら何度目かで抵抗された。

「…本読むから放せ。」
「はーい。」
「…。」

俺にそう言った手前、本を開いた猊下だが
それは抱き寄せたときからほんの数ページしか進んでいない。
居心地悪そうに顰められた顔、ほんのり色づいている頬と耳。
何分かに一度脱出を試み、その度に失敗し
頬を染め直して腕の中にぎこちなく納まる。
手の甲への軽いキスに、次を期待して揺れる漆黒の瞳。

…いっそ厭らしいことして欲しい、と思ってる猊下は殺人的に可愛いですねぇ。

確かに厭らしい事をすれば、恥ずかしいなんて
思う余裕もなくなりますからね。
それではいつもと同じなので。
もう少し純粋にこの状況が照れ臭くてたまらないという猊下を
堪能させて下さい。

まったりなんて嘘だ。
これは激しい焦らしプレイである。

2007.01.02

本当のことは恥ずかしくて言えない。青春男児で遊ぶ大人(100歳越え)。