オレンジの髪の毛


「村田ってさー…ヨザックの何処が好き?」
唐突な質問に村田は一瞬きょとんと目を丸めて何故かコンラッドを見た。
何も知りません、とばかりに肩を竦める名付け親。
その視線は次にヴォルフラムへ、同じく知らないとばかりに眉を寄せる婚約者。
「って、何で二人の顔見るわけ?質問してんの俺じゃん。」
「どちらかとそんな話でもしてたのかなーって。」
「してないけど、急に思い浮かんだから。」
「ヨザックが?渋谷の胸の中にほわわーんと?」
恋する乙女みたいに言うな。そして毎度のことながらヴォルフラムを煽るな。
キレイな瞳を吊り上たヴォルフが爆発する前に否定し、宥める。
最初より鮮やかになった俺のヴォルフ捌きにコンラッドがクスクスと笑った。
「ヨザックってさ、まぁたまに女のときもあるけど…男の中でもごっつい方だろ?」
「うん。彼が華奢に見えたことはないね。」
「なー?んでさ村田って女の子大好きじゃんか、なのに何でTHE・男のヨザック?って。」
「何で…って、何?ヨザックには人として惚れる要素が一個もないって言いたいわけ?」
「そんなわけないだろー。」
「じゃあ言ってみてよ渋谷。ヨザックのいいところ、いちー。」
「えっ!?じょ、上腕二頭筋!!」
「にー。」
「優しい!」
「さーん。」
「た、頼りになる!」
「何どもってんの?て言うか一番先に上腕二頭筋って酷いな。」
「いや急だったから…ってなぁあ!!俺流されるとこだった!!」
「既に充分流されていたと思いますが。」
ボケのコンラッドにすかさず突っ込まれて俺は少し凹んだ。
今のはまだセーフだと思ってたけど、ヴォルフも俺を可哀相な目で見てるから完全に流されていたんだろう。
うーっと唸る俺に満足気に紅茶を啜った村田が言う。
「どこが好きって決まってるじゃん。」
「え!?」
決まってるって!?それってココっていう限定じゃなくて、まさか村田!
家まで押しかけてきた女の子をあんなにクールに振ったお前がまさかそんな!
そんな乙女な解答をーーー!!??

「オレンジの髪の毛だね。」

「…はぁ!?」
「だからオレンジの髪だって。」
「そこ!?何でそこ!?あえてそこ!?今のは"全部"っていうフリだろ!?」
「だってオレンジだよ?オーゥレンジッだよ?渋谷オレンジって分かる?ミカン色、ほら冬場こたつの上にあるあのミカンの皮の色だよ?」
「オレンジぐらい分かるし完璧な発音もしなくていいから!」
「あの姿見た瞬間にこれはゲットするしかない!って超ワクワクしちゃってー。」
「何だか昆虫の様な言われようだな。」
「こんな無邪気な猊下のお顔はなかなか見られませんね。」
「いやもうさーオレンジ、そうオレンジだよ、オレンジなんだよ、髪の毛が。」
キラキラした顔をわざと作って祈るように手を握り遠くを見つめる村田。
ほわわーんと胸の中に浮かんでいるのはヨザックなのか、それともこたつの上のミカンなのか。
この友達はハリウッド女優も顔負けの演技派で、全ては冗談なのが分かっていても
あぁーこの場にお庭番が居なくて良かった。
分かっててもキツイぞ、切ないぞ、泣かせる役者だな村田。

数日後、中庭で膝に抱っこした村田に髪を撫でられ幸せ一杯のヨザックに
俺はもう少しで漢泣きするところだった。
演技じゃなくても泣かせる男、オレンジの髪の毛のヨザックに幸あれ。

2007.01.09

単純明快な渋谷なんかにからかわれてなるものか。
うちのヴォルフとコンラッドはクールな突っ込み兄弟ですか?(聞いた!)