血で染まってるこの手の平で
ずしゃ…っと地面に崩れ落ちる身体の重さで心が軋む。
もう何度となく経験した人を死に至らしめるということが、こんなに重いのは何故なのか
理由はこの世界に愛しい人が居るからかもしれない。
死んだ兵士の身包みを剥いで、写真入りのアクセサリーがないかなんて
確認しなくとも分かるようになった。この屍を大事に思う誰かは居るのだ、と。
親も妻も子もない、よくて胸の鳩と、眉間に皺の上司、腹黒い幼馴染の隊長。
それも確かに胸の中の支えではあってけれど最後の切り札ではなかった。
もう大切な誰かなど作るだけ損だと思っていた俺に出来たくらいだから
この屍にもきっと大切な誰かが居るに違いない。
「…猊下んとこ行く前に、風呂入らないとな。」
血に濡れた身体がその匂いのせいか、錆びていくような感覚。
浮かんだ猊下まで錆びてしまいそうで小さく溜息を吐き嫌な心地を振り払う。
この手の平が血で染まるのは眞魔国の為、ひいては猊下の為。
僕の方をひいてどうするのさ、と貴方の呆れた声が聞こえて血の海をあとにする。
足跡がつかないように靴を少し床で擦って、血を引き千切る。
どうしてそんなにキレイなんですかー猊下は。
月明りが多い日は任務に向かない。見つかりやすくなるから。
でも、猊下を月のようだと隊長が言うのを聞いてからそう嫌いではなくなった。
嗚呼、俺の罪を照らし出して、全ては貴方の為なのに。
それを横暴だと思えれば良かったのに。
太陽の坊ちゃんとは違う。
闇に閉ざされてから輝きはじめて、朝になれば消えてしまう罪を穏やかに受け止める。
そんなに大人振らなくたっていい。笑ってくれなくたっていい。
貴方だってまだ見なくていいのに。
命を奪い血に染まってるこの手の平で
何事もなかったようにその白い頬を撫ぜ
貴方の為にやったのだと迷いもなく思う男を。
2007.01.13
ちょっこすシリアスにしてみたり。
国の重鎮に、眞魔国は血の犠牲に成り立っていると理解しといて欲しくもあるけど
恋人として猊下を年相応に扱ってやりたくもあるジレンマ。