忘れないこの高い空
「んがぁー…終わった!!」
ぐーっと伸びをしてから肩をまわす友人の大賢者に書類の山に囲まれた俺は
肩をまわす=野球という思考を振り切り声をあげた。
「裏切り者!一緒に終わろうって言ったじゃねーか!」
「何それ?マラソン大会の女子?」
回る椅子を楽しみながらギュンターのチェックを待つ表情は余裕。
基本的に村田の書類は再提出にならない。
一人で缶詰めになるより気が楽かと思った大賢者執務室拉致計画だったが
その集中力と処理能力を目の当たりにさせられ
劣等感に苛まれるだけの結果に終わってしまった。
思った通り、ギュンターの判定は特A。
鼻息を荒くしている王佐に笑顔で返す辺りも自分とは器が違うと思う。
ぐったりと額を机に押し当てた俺はノックの音に
今やホントの婚約者のヴォルフラムと融通の利くコンラッドのどちらかであることを期待して顔を上げた。
「失礼しまーす。」
「なんだ…ヨザックか。」
「なんだとはなんですかー。」
「ゴメン、ヨザックは好きだけど俺の癒しは別にある。」
「はぁ。」
息抜きに使えないこともないけど、という自分の思考が
彼個人に対してなんと失礼なことかと気付き、ゴメンの部分はちょっと本気で謝った。
小首を傾げたオレンジ頭の次の言葉を遮ったのは
手を前に突き出した村田の声。
「ヨザックそのまま!」
「へ?」
「今から僕は僕なりの全力疾走で君に飛びつく。」
椅子に座ったまま手だけファイティングポーズをとる村田に
条件反射でヨザックもファイティングポーズをとった。
でやーと言いながらの全力疾走はトップスピードに到達する前に
お庭番の筋肉のゴールに辿り着いてしまっている。
村田の運動神経でこの距離の間にトップスピードなんて期待はしてないけれど
出来ることならダッシュ練のメニューを与えたい。
自分で飛びついておいてもがっと声を上げる辺りがバカっぽい村田を
よろめくこともなくしっかりと抱きとめたヨザックは
そんな恋人を可愛いと思うより純粋におかしくて笑っている。
「猊下、何がしたいんですかぁ?」
「そこに飛びつきたい筋肉がある限り僕は何度でも飛びつき続ける。」
「ちょっとーイチャつくなら他所でやってくんない?」
「渋谷…僕はそこにヨザックが居る限り所構わずイチャついてみせると誓うよ。」
「その宣誓を俺に受け取れと!?」
「認めてくれ渋谷!僕とヨザックの結婚を!!」
「マジですか猊下。どっちがドレス着ます?俺でいいですか?」
無駄にカッコイイ顔を作ってヨザックと手に手を取り合う大賢者の
結婚宣言にギュンターは既に意識を失っていた。
俺はおかしな宣誓に突っ込むべきか結婚に突っ込むべきか
どっちのドレス姿も嫌だが村田の方まだマシだと忠告すべきかで迷っている。
ヨザックは完全に主人のお遊びに便乗して結婚という響きにむしろ嬉しそうな表情。
分かってる、分かっているはずだ渋谷有利。これは村田のお遊びなんだ。
「僕は行くよ。アフターファイブは彼氏とデートって決めてるんだ。」
「今おやつの時間だけど。」
「え…っ渋谷って仕事終わったらすぐに?明るいうちから?」
「お前の想像で俺は何を食べた!?」
「そんなの言えるわけないじゃないか。でもそれもいいね。」
「いいんですか?俺は貴方が居る限り所構わずいただけるんですよ?」
「間違ってもそれを誓わないでくれ。」
「どーうしてお腹が減るのかなぁー♪じゃあね渋谷!」
「ちょっ待!!その歌で締めくくるなよ!なんつーもん匂わせて去るんだ!」
「陛下、猊下で妄想はかなりいいおやつになりますよ。いやもうホント俺おやつの時間以外も空腹をそれで紛らわせてます。」
「するかぁー!!」
「僕はーお庭番のーメインディッシュー♪」
遊びが高等過ぎてついていけない俺は今日も執務室から高い空を見上げる。
いつまでも慣れない日常に毎日毎日、空がキレイで涙が出ます。
2007.01.30
村田+ヨザック=なんかもうよく分かんなくてついていけない。
でも、執務でギラギラしてる村田を見た後だとなんだかんだ
ヨザックが居て良かったなぁと思う有利が居ればいいと思います。