「でっかい背中だねぇ」
坊ちゃんはでかい風呂が好きだ。
桶片手にふんがふんがと鼻歌交じりで機嫌よく
風呂に向かう坊ちゃんに遭遇した猊下は護衛の俺諸共
拉致されて服をはがれ今に至る。
「あ゛ー…。」
「おっさん臭いぞー渋谷。」
「仕方ないだろー気持ちいいと勝手に出ちまうんだからさー。」
「これだけ広いとねー。」
ほあー…と坊ちゃんより意味の分からない声を出す猊下に
俺は風呂場の片隅から苦笑いした。
「俺は生きた心地しないっすけど。」
「え?何で?ヨザックはぬるま湯派?もしかしてシャワーだけ派?」
きょとん、と問うた坊ちゃんは当然、裸。
そうだったっけ?と続けて問う猊下も、裸。
濡れた二人の漆黒の髪の美しさはこの世のものとは思えない。
これを双黒マニアのギュンギュン王佐が見た日には
風呂は鼻血で真っ赤に染まり、色んな汁がシャワーのように降り注ぐだろう。
決して双黒二人と風呂に入ったなんて知られてはならない。
硬く笑い返していると物凄い音と共に魔王陛下の婚約者が現れた。
双黒ではないが、負けず劣らずの美少年、裸。
坊ちゃんにも閣下にもそんな感情は持ち合わせていないが
美少年が裸で揃うと何故か大人の男の俺は
目を逸らさなければいけない気がする。
「ユーリ!この浮気者ぉ!!」
「うぉっ!なんだヴォルフかーお前も一緒に浸かろうぜー。」
「呑気に返すな尻軽!僕以外の男の前で肌を晒して!」
ギャースギャースと吠えながらもまず桶で湯を掬い身体を流す辺り
プー閣下は大分坊ちゃんに調教されている。
「僕はいいって言ったんだけど、渋谷が久し振りに僕と裸の付き合いをしたいって言うからさ。」
「裸の付き合いだと!?久し振りということは以前にも!?どういうことだユーリ!」
「村田!お前わざと言ってるだろ!違うってヴォルフ!いて!ちょっ!桶痛いから!」
「いくら大賢者の僕でも魔王に望まれればイヤとは言えなくて、うぅっヨザックーッ!!」
わざとらしく両手で目を覆い、ザバッと湯から上がる猊下。
目ではなくて下を隠して頂きたい。
「あっコラ逃げんな!不穏な空気作って逃げんなよーっ!」
「待てユーリ!そんなに猊下が追いたいか!」
ギャーッと叫ぶ声も風呂場ではいつも以上に響く。
王佐が聞きつけてくれないことを祈りながら我関せずと身体を洗っていると
狼なんて単語知りませんという感じで猊下は俺の横に椅子を置いた。
良かった、前は隠れている。
「フォンビーレフェルト卿はからかい甲斐があっていいねー。」
「あんまり苛めたら可哀相ですよ。」
「ん?ヤキモチ?ヨザも苛められたいの?」
火照った頬に悪戯な瞳、裸、でそんな台詞を言われてしまうと
背筋をすっと何かが駆け抜けて、不自然にどこかが硬くなってしまうではないか。
「あ、そうだ、背中流してあげるよ。」
「は!?いやいいですよ!そんな恐れ多い!」
「なに遠慮してんのさ、当然次は僕の背中を君が流すんだよ。」
余計にマズいですって!!
必死の説得の間に猊下は泡を立てタオルを俺の背に当てると思いきや
顎を肩に乗せて腕を前に回した。
薄っぺらい胸や腹がしっとりと張り付いている。
「でっかい背中だねぇ。」
「…猊下。」
「うん、この場で襲ったら君、殺すからね。」
わざとかぁー…。
叫びではなく、掠れた自分の声が脳内で響く。
泡で滑る手で、腹の下の際どい部分を撫で上げ、猊下は耳元で哂った。
2007.01.06
なに渋谷とフォンビーレフェルト卿の裸にまで気を遣ってるの?