パッチワーク


 眞王廟の女性達の様子がいつもと違う、とヨザックは思った。
観察してみるとすれ違った巫女や衛兵は皆、何かを手に笑顔を咲かせている。
その華やいだ流れが猊下の部屋からきていることに気付くのはそう遅くなかった。
また巫女にマジックでも見せているのだろうか。
恋人にすれば女性に囲まれてお楽しみというのはいただけない。
しかしヨザックはキラキラとした瞳の巫女の会釈に無理なく微笑み返した。
きっと村田も楽しそうな顔をしているに違いない。
その顔を思い浮かべるだけで自然と笑顔、これ当然。
巫女さん最高、と常日頃から口にしている村田だが彼女達への懐き方は
構って欲しい弟というところだ。
構って貰って満面の笑み、微笑ましいったらありゃしない。
「失礼しまーす。」
「あ、ヨザック。」
予想通りの笑顔に予想以上のハーレム状態。
ソファの両隣に巫女を座らせ更に後ろ、前、斜め、周りをぐるっと
囲まれているではないか。
微笑ましいという笑顔に、複雑という心情が張り付いた難しい表情をお庭番は会得した。
「ちょっとぉーグリ江の指定席で何やってるのよ。」
そのままの表情でシッシッと手で掃えば関係をご承知の巫女は
笑って村田の横を空ける。
眞王廟の巫女や兵が身分違いの恋が大好物でなければこうはいかない。
現に、血盟城の魔王陛下は身分の申し分ないフォンビーレフェルト卿が相手でも
鼻血の小姑が割って入るのだ。
恵まれた環境に甘えさせてもらい、ヨザックは村田の隣に腰かけて
何かを縫っているらしい手元を覗き込んだ。
「猊下、今日はどうやって巫女さん達を虜に?」
「過去の記憶を使って…できた、これはフォンヴォルテール卿へのプレゼントだね。」
わぁっという感嘆の声が巫女から上がる。
両手で広げられた物は”パッチワーク”だった。
ただ眞魔国にはパッチワークはないようでヨザックも初めて見るその作品にほぅ、と声を上げる。
三種類の布を正方形のブロックに切り、それを規則通りに縫い合わせている。
無地の部分にフォンヴォルテール卿、ウェラー卿、フォンビーレフェルト卿の
眞魔国似てねぇ三兄弟が刺繍されていた。
眉間にしわ寄せ、可愛いもの命、隠れブラコンの彼が少しだけ頬を染め
眉を下げる所が見られそうだ。実際、見たくないが。
「裁縫も出来たんですかぁ?グリ江より上手いなんて女の立場がなくなるわ。」
「グリ江ちゃんのその筋肉で男の僕は立場がなくなってるんだけど。」
「あら、猊下は筋肉なんてなくても男前よぉ、ねぇ?」
「そうですわ猊下。」
「ここに居るみな、猊下に恋人がいらっしゃると聞いたときは唇を噛みましたのよ。」
「じゃあみんなのムラケンになろうかなー。」
机と膝に散らばっていた正方形の布をかき集め数を合わせると
村田はそれに作り方のメモを添えた。
初めてのパッチワークキット、というところだろう。
ロイヤルファミリーセット、眞魔国似てねぇ三兄弟セット、毒女アニシナセット等
種類はやたらと抱負らしい。
一人一人に手渡さず、人数分のセットを一人の巫女に渡すと村田はふわりと微笑んだ。
周りの誰もを魅了してしまうその笑みだが、その表情が見られるただ一つの条件を
巫女達は既に知っている。

「でも明日からでいい?グリ江ちゃんとイチャつき収めするからさ。」

いつも自分達下々の者にまでを気遣い、その背に4000年の記憶を背負った主が
年相応に笑って、独占したがる唯一の存在を
巫女達は既に知っている。
そう、既に知っているのだが巫女達は顔を見合わせると
少しの意地悪をした。

「グリエ、猊下の机の引き出しに貴方の刺繍が入ったぱっちわーくが隠してありますわよ。」
「わぁっ!///」
「ふふ、ありがとうございました猊下、ご機嫌よう。」

閉ざしたドアの向こう、引き出しを開ける開けないの必死の攻防の音が
静かな眞王廟の今日の幸せの音になる。

2007.01.20

ただ巫女さんに囲まれてる村田を妄想したかった…!!!
キャラ崩壊とか眞王廟崩壊ですみませorz