末期症状
「猊下ぁー貴方の天使グリ江ちゃんのご帰還よー。」
「グリ江ちゃん天使の意味間違って覚えてない?」
べちっと顔面に張り手をして、村田はその抱擁を拒絶した。
うっかり真っ赤な口紅がついてしまったが慌てる事無く
ヨザックのドレスで手を拭きにかかる。
「ちょ!これ新しいドレスなのにぃ!」
「ドレスの汚れなんて君自身のおぞましさの前では全く気にならない。」
離れろ女装趣味の筋肉。でないと今度は足跡だぞ。
距離を狭めてくる大柄の女性でなきものと自分の間に
足を突き出してでいっと攻撃を繰り出すとヨザックは情けなく眉を下げた。
シナを作っていた身体の力を抜いていつもの立ち方へ戻す。
「猊下に会いたくて着替えもせずに来たんじゃないですかぁ。」
「着替えて来てくれた方が僕は嬉しいよ、いやむしろ来ない方が嬉しい?」
「んな!それが愛しい恋人に対する台詞ですか!?」
「うっさいなー。そんな目に痛い格好で来ることの方が恋人に対して酷い仕打ちだと思わない?」
「思いませーん。グリ江みんなのアイドルだもん。」
「あぁ末期患者が居るね、君の自意識過剰の妄想は末期。」
「やだぁ猊下ったらその末期患者が好きな癖に。」
「いやマジで変態はイヤなんだよね。」
先程までの攻撃呪文と同じようにさらっと言ってのけたが
眞魔国イチの有能諜報員はその僅かな響きの違いに目を見開いた。
「任務の為?とかは仕方ないと思うけどさー今回の君の任務、女装なんて必要なかったじゃない?」
「え。」
「ん、コレね、渋谷が僕を心配してフォンヴォルテール卿に貰ってきてくれた君の任務内容とスケジュール。」
「…猊」
「女装、末期?」
「ちが」
「末期?」
グリ江は砂煙を立てる勢いで眞王廟を飛び出し
ドレスを脱ぎ捨て部屋のクレンジングに手をかけた。
2007.01.03
本当は女装でもなんでもいいけど、苛めてみる猊下。