負け犬
村田は見た感じ、性に関して執着が薄く思われる。
女性には下ネタを振らないしエッチな夢もそうそう見ない。
有り余った若さを魔王陛下のようにスポーツで発散させたりもしていない。
今日も村田は書庫から持ち出した本をベッドで寝転がって読んでいた。
格好としてはだらしない筈なのに、その姿さえ妙に知的に見えるのは気のせいではなかろう。
ヨザックはその村田が寝転んでいるベッドを背に仕込み刀を磨いていた。
本を読んでいる相手の護衛をただただ突っ立って見張るのは暇以外の何者でもない。
村田の顔を眺めているのは好きだが、そのキレイな瞳が本しか映さないのは
非常につまらないものだ。
床に並べられた短剣やかぎ針の数は尋常ではなかった。
腕丸出しの軽装に全ての武具を収めようと渋谷有利が考えるなら
まず机の一番上の引き出しか押入れに向って
「ド●えもーん四次元ポケットかしてー」と言うだろう。
ド●えもんの四次元ポケットにはスペアがあり、押入れの上段の枕の下に
隠されているのはアニメを見ている者の一般常識だが、あの魔王は人の物を勝手に拝借出来まい。
シャラ…という剣を磨く音に絡んでいた村田のページをめくる音がやんだ。
身体を起こし読み終わった本を自分から離れたところに投げた彼の目が
オレンジの後頭部でとまる。
無駄に長い襟足はやはり女装の為だろうか。
村田はうなじのキレイな女性が好きだ。
そういえばグリ江ちゃんのうなじ…見た事ない気がする。
急がば回れ。村田はベットの上を四つん這いでヨザックの後ろへ移動した。
振り向こうとするお庭番を制し、髪をすくってみる。
予想通り、逞しい首筋であった。
細く頼りないながらも女性の芯の強さを感じるうなじではない。
とにかく頼りがいのあるうなじである。
自分は重症だな。と思いながら村田は首筋に舌を這わせた。
相手が振り向くのを今度は止めずにチュッと音をたてて吸い付くと
左手に緩く頬を摘ままれる。ヨザックは呆れた様に笑っていた。
「なぁに発情してんですか。」
「グリ江ちゃんのうなじが僕のど真ん中にきた。」
「ど真ん中?」
一瞬で村田の身体が宙に浮き、背中がシーツと仲良しになって春の日差しは圧し掛かっているお庭番の身体に遮られる。
力で押さえつけられたら敵わない、ということを突きつけられると
ゾクゾクするのを村田は知っていた。
厭らしく口の端を上げて服の上から゛ど真ん中゛を撫でられても抵抗はしない。
与えられた感覚に素直に肩を揺らすとお庭番は更に目を細めた。
「嘘吐きですねー。何もなってないのに触られたくてそんなことをおっしゃったんですかー。」
「うーん、どうだろう。勃つまではいかなくとも興奮したのは事実だよ。」
「それで俺においたしたと。」
村田にされたようにヨザックが細い首筋を舐めて吸いつく。
やりやすいように横を向いて首筋を晒した村田が
どんな淫靡な顔をしているのかと思いきや
彼は伏せた瞼まで震わせて頬を赤く染めていた。
やたらと初々しい反応にヨザックの興奮は逆に高まる。
「猊下、そんな顔して誘ってるんでしょう。」
掠れた声で囁くと村田は閉じていた瞳を開きゆっくりとヨザックの瞳を見据えた。
空色の瞳に見下ろされている。
それだけで頭の中に霧がかかって理性や羞恥心の輪郭が曖昧になる。
なけなしのプライドで村田が手の甲を額に当てて情けなく笑った。
「僕ってさーすっかり君に調教されてるよね。」
「そんな濃厚なプレイをした覚えはありませんよ。」
「…グリ江ちゃんに興奮してしたくなったんだ。」
「あれ?もしかして逆をご希望でした?」
「これでも男だし。でもさーいざそういう空気になると、メチャクチャにされたいって思うんだよねー。」
あん!もう好きにして!って感じ?
いつからこんなになっちゃのかなー。
照れ臭そうに笑う若い少年の不器用さと台詞の意味の噛み合わなさに
ヨザックは彼の言う通りメチャクチャに服を剥ぎ取った。
飢えた狼の歯が首筋に噛み付いて爪が胸に食い込む。
惚れたら負けだよねぇ。
乱暴なキスに目を閉じた村田は変わっていく自分を受け入れて
゛ど真ん中゛を相手に擦り付けた。
2007.02.10
村田自身、こんなんだったかなー自分。ってなればいい。
過去の記憶から最善の選択だとか、色々分かってはいるけど
理性で止まらないってあるんだなーみたいな。