帯びていく
風呂から上がった村田はまだ眠くなく特にすることもないので
防水加工で持ってきた暇潰しの参考書を開いた。
今夜は少し蒸し暑いと感じたが気力を奪われるほどではなかった。
眞魔国で勉強をするとのんびり時間を使って解き進められるからいい。
数学が趣味のパズルのように思えてくる。
虫の声を聞きながら黙々と問題を解いていた村田は
窓のガラスが叩かれる音に顔を上げた。
筆記用具を置き、一度伸びをして窓に歩み寄る。
「こんばんは。」
「やぁ、いらっしゃい。どうしたの?」
「特に意味はないんすけど。これはお土産です。」
窓を叩いたのは村田の恋人であるグリエ・ヨザックであった。
彼は窓を開けて出迎えてくれた村田の髪に触れ、唇を寄せた。
恋人の挨拶として彼はそれを行うのだが、埼玉育ちの彼は未だそれを
映画みたいだなぁと現実として受け止めていない節がある。
「あ。探してくれたんだ。ありがとう。」
「いーえ。」
土産は村田が読みたいと言った本であった。
執務に使う小難しい本ではない。
シンニチで宣伝されていたただの推理小説だ。
ぺらぺらとそれをめくりながら、村田は先ほどまで居た机ではなく
ソファーに移動した。
楽しげな彼の後姿にヨザックはこっそり目を細める。
「何をしてらしたんですか?」
眠気が訪れるまでの時間を村田が持て余していることをヨザックは知っていた。
身分の違いから日中大っぴらに触れ合う事は出来ない。
夜が更けた頃にそっと男子禁制の眞王廟に忍び込み
短い時間でも共用しようと思い立つのに時間はかからなかった。
彼の机に知らない文字で書かれた本が広げられている。
「地球の学校の勉強。」
そう言うと、ヨザックは何度か瞬きをして尋ねた。
「俺、邪魔しちまいました?」
「別に。暇潰しだったから。」
その言葉通り、新たな暇潰しを見つけた村田はそれを完全に放置している。
そっと、自分の知らない世界をヨザックは閉ざした。
筆記用具を片付け、机の端に寄せておく。
「…よっ。」
「…。」
ヨザックは後ろから村田を脚で挟むようにソファーを滑り降りた。
彼と背もたれの間に入り込むと腰に腕を回し、引き寄せる。
村田は本を読んだまま黙ってそれに従った。
跳ねた黒髪をヨザックの指が弄ぶ。
そのまま村田は本を読み続けるだろうと思っていたのだが
彼は本をゆっくりと閉じてくてんと力を抜いた。
村田が自分を構う気になったのだろうかと耳に唇を寄せ
チュ、と可愛らしい音をたててキスをする。
それに反応して振り返る彼の、今度は唇を奪う。
最初は単純に触れ合わせ、深くしていく。
腰に回していた手で彼の身体を弄り、押し倒す形を取ったが
村田はヨザックの身体を手で押し返した。
「待て。」
キスの息継ぎの合間に溜息交じりで言われても待てる気がしない。
ただ彼の意にそぐわない行為はいただけないので、一応理由を聞いて
説得という方法を取ろうとヨザックはぐっと堪えた。
「なんでですか?」
眼鏡を外し、髪を撫ぜ、耳朶を弄りながら欲で滾る瞳で村田の瞳を覗き込む。
「君、暑いから。僕苦手なんだよ暑いの。」
その台詞に内心ほっとする。
したい気持ちは十二分だが、実は体調がよくない、と言われたら
するしないの話ではなくなる。
「俺は好きなんすけど。暑がってる猊下。」
「どういう意味…っ。」
「狭いから暴れないで下さいね。」
村田の肩を掴み、うつ伏せにさせるとヨザックは上から体重をかけた。
重さに村田が身じろぐがヨザックはそのまま行為を続けるつもりらしく
押さえつけられて隙間のないソファーと身体の間を逞しい腕が押し入って胸を弄り始めた。
肌と肌が触れる不快感を村田はそのまま不快に思ったが
ヨザックは妙に興奮しているようだ。
わざと不快になるように耳や首に熱い息を吹きかけて唾液を塗りこむように舐めてくる。
腰に熱いものを擦り付けられた村田は腕に力を込めて
押し付けられている身体をソファーから僅かに浮かせた。
「ヨザ、ちょっと落ち着け。」
「落ち着いてますよぉ。」
「いてっ。」
胸や腹を弄っていた手が汗を拭うようにじっとりと肌を滑り雄を強く握る。
浮かせた身体も再び上から押さえつけられ
村田はヨザックの手荒さに言葉を詰まらせた。
ヨザックは勃起した性器を服越しに村田の肛門に擦り付け始めた。
短い息を吐いてただただ服越しに尻を犯され恥ずかしさで全身が赤く染まる。
実際に触れても挿れてもいないのに相手は興奮していて
重さと暑さと異常な行為に混乱してきた。
「猊下…全部真っ赤で、可愛い。」
「う…っさい…。」
「ヤベ、挿れてねぇのに…イッちまいそう…。」
その言葉に村田が首を振ったがヨザックはそれを無視して
動きを早め服越しに村田を責め立てた。
何度か抉るように強く塊を押し付けられた瞬間、村田はヨザックがイってしまったことを悟った。
「なんで…まだ僕…。」
「分かってますよ…。」
服の擦れる音で彼が下半身を露わにしたことは分かる。
恐る恐る後ろを振り返るとヨザックの雄はまだ天に向かってそそり立っている。
一人で終わられてしまっては困ると思ったが
彼の赤黒い凶器を目にすると怖いという感情も芽生えた。
怖い、と思っているのに尻穴がひくひくと疼いてしまう事に
村田はなんだか複雑になった。
落ち着かなければとすう、と息を吸い込んでゆっくりと吐く。
「ヨザ、自分が変なのは分かってるかい?」
「すんません。」
「暑い日の君には近付かない方がいいみたいだね。」
蒸れた髪の中に空気を送りたかったのか、村田は頭を乱暴にかき回した。
その手を首の後ろに当てて汗を拭う。
いつも白い首筋がうっすら赤く染まっている。
「猊下も悪いんすよ?のぼせてるアンタの顔、すげー色っぽいんすもん。」
「顔なんか見てないじゃないか。」
「じゃあこっちっすね。」
「コロコロ人を転がすなっての。」
「猊下。」
「……キスで甘えたって、許さないぞ。」
「そんな顔で言われましても。」
顔は真っ赤、劣情に寄せられた眉、潤んだ瞳に閉まりきらない唇。
汗で額に張りついた前髪をゆっくりかき上げてやると
そこだけがやけに可愛らしくて思わず笑ってしまった。
焦れた村田が自らズボンを蹴っ飛ばしている。
脚に気を取られたヨザックの首に村田が腕をかけて引き寄せた。
ぐっと近付いた瞳が先程までとは違う熱を宿している。
これは流されている経験不足の少年ではない。
欲に滾った獣の瞳。
「もういいから…ヤろうよ。」
一瞬、蒼穹の瞳を見開いてヨザックは村田との夏は
二度目なのだと彼の成長に口の端を上げた。
2008.07.27
これは…私の中でとぐろを巻く何かが私自身にも分からなくて
ぐるぐるしながら書いてました。何がしたいのか分かってないから
前半と後半が繋がってねーのな!(笑)
半年後に読み返したら理屈っぽく説明出来るのかなぁと思います…orz