大変 2


「ヨーザ、言いたい事があるなら言いなって。」
「…いいです。」

無理矢理眞王廟に猊下を連れ帰ったはいいものの、見苦しい嫉妬が
情けなくて俺は不貞腐れ、部屋の隅で剣を磨いていた。
猊下は椅子に反対向きに座って背凭れの上で頬杖をついている。
そんな風に可愛らしく首を傾げられても今は苛立ちが増すだけだ。
そうやって無意識に可愛らしいことをするから
猊下が意識していない男まで釣り上げちゃうんですよ。
言葉には出さずに心の中で悪態を吐いたハズだが、顔に出ていたらしく
猊下は椅子から腰を上げて俺に歩み寄ると剣を持っているにも関わらず
膝の上に座ろうと腕の中へ入り込んできた。
剣を横へ置き無理に座ろうとして落ちそうになった腰を支える。
「ちょ…っ危ないでしょうが。」
「御免。」
首に腕を回し、猊下が素直に謝る。
ここでなお俺が意地を張り続けるのはあまりにも幼稚だ。
してやられた、と思いながらも不満を口にしていく。
「…猊下は、陛下のお兄様がいらっしゃるからご機嫌だったんですよね…なんか面白くな…って猊下。」
「ん?なぁに?」
はむはむと頬が食まれ、俺が止めると猊下は至近距離でにっこりと微笑んだ。
「俺の話を聞く気あります?」
「聞いてるよ。まだ途中だろ?続けて?」
「あのお方…猊下をとてもお気に召していたようですね。猊下もお気付きでしょう?気付いていてああいう風にわざと煽ったり触れられてされるがままになっ…猊下。」
頬を食まれながらも言葉を続けていると今度は瞼の上やこめかみにキスをされ始めた。
襲ってくる唇に目を閉じて顔を顰め抗議する。
「なんだい?」
「いや、なんだい?じゃなく…だから猊下!」
話している最中に唇を奪われぐいっと顔を引き剥がす。
「お兄さんが僕を気に入ってて僕もそれを知ってて、それから?」
俺が顔にあてた手を取り、見せ付けるように
人差し指を口に含んだ猊下が目を細め、続きを促した。
あまりに甘ったるい視線に初めて恋をしたときのような恥ずかしさが込み上げ
獣の俺は要求されるまま大人しく続きを話し始める。
「で、ですから…ん…猊下は、陛下のお兄様に気を持たせて…ぅ……もし猊下にそのつもりがなく、てもチキュウであの方が…ん、か、関係をせま………ちょっとぉ!」
自分が続きを促した話の最中にも関わらず、猊下は俺の顔にキスを降らせる。
最終的には眼鏡をほっぽって本格的に顔を寄せ唇を食み舌を入れて来た。
その攻撃に負けまいと頑張っていた俺もキスと会話の両立で息継ぎが難しくなり
再度猊下の顔を引き剥がす。
「…もうなんなのっ!もしかしてわざとなの!?嫉妬に身悶える私を猊下は楽しんでらっしゃるの!?」
思わず女になってヒステリックに叫ぶと猊下は
今まで見せたことのないような優しい顔をした。

「御免ね。」

頬を寄せ首に回した腕に力を込めなおし幸せそうな溜息が落とされる。
幸せすぎてどうしよう、とでも言いたげな表情だが俺はさっきから
猊下と正反対の感情をぶつけようとしてるんですよ。
「…なんですかその顔。」
「渋谷のお兄さんはさ、やたらとお人よしで他人の僕まで弟みたく可愛がって心配もしてくれちゃうんだよね。一人っ子のムラケンはなんか嬉しくなっちゃうんだ。御免ね、ヨザから見たら懐きすぎてどうかと思う感じだったかな。」

…解っている。

猊下はその落ち着いた話し方や物腰とは裏腹に
いつも年相応に扱われる事に憧れている。
何の遠慮もなく頬を引っ張ってくる彼の行動はただの村田健へのものであって
そこに大賢者に対する畏怖や尊敬の感情はない。
もしかするとただの村田健よりもっと憧れな“弟の村田健”が欲しくて
猊下は彼に懐いて構って欲しがっているのかもしれない。
部下で恋人の自分には与えられない。

無償だが、それ以上に発展しない不変の愛を。

「猊下は弟のつもりでも、アチラは兄としてではなく恋愛感情から可愛がっているのかもしれませんよ。」
「うーん…その可能性は限りなく低いと思うんだよなぁ。彼は男どころか現実世界の女にも興味がなさげだから。」
なんせ二次元を愛する男、と猊下がまたショーリ様を思い出して楽しそうに笑う。
分かってはいても俺は切ないんですってば猊下。
「陛下も猊下も男に興味はなかったでしょ。でも今は俺とこうなさっている。」
「そうだね。お兄さんが僕を好きになる可能性はゼロじゃない。」
「そうですよ、ですから…ん…。」

また言葉が飲み込まれてしまった。
猊下の熱い舌が俺の舌を捕らえて甘えている。

「…お兄さんが僕を好きだとしてさ…僕は、誰が好き?」

俺の唾液で濡れた唇で、その問いかけをされてしまうと
溜息を吐いて折れて差し上げるしかない。
膝の上の細い身体を抱き締め肩に額をくっつけて
阿呆らしさに脱力した。

「さっきから貴方に何度も強制的に唇を奪われている人物、つまりは俺です。」
「うん、でももっとしたいなぁ。」
「はいはい、猊下は俺が大好きなんですね。はーい。解りましたよー。」

腰を抱き、背にしていたベッドに猊下を座らせ、倒す。
俺を獣と知りながらもっとと言ったのだ。これぐらいの覚悟はしていただろう。
最高に面白そうな顔をして猊下が両手を俺に伸ばした。

「幸せ。」
「…なにがですか?」
「全部さ、分かり合える親友にそのお兄ちゃんにヤキモチを妬いてくれる恋人に…みんな一緒。毎日愛が重くってにやけちゃう。」



素直に言えば、もっと与えられる愛だろうに。
我慢をするのが貴方の愛だと言うのなら苦言を呈したりはしないけれど。



1人は寂しいと貴方はチキュウの大切な方に言った事がない。



「脱がせて、おにーちゃんv」
「…はい、もう羨ましがりません。」

友達と家族と恋人の全部になりたくて。
羽根が触れるようなキスを贈った。

2007.05.27

チュッチュされて話が出来ないヨザ書きたさに作りました。
どんな状況だよ!とセルフツッコミをしながらも無理に!!
村田は渋谷家全員に懐いてて欲しいです。