「ヴォルフ……」
婚約者の名を呼ぶ。彼に掛けた言葉はそれだけで、後に続く言葉は無い。有利が ゆっくりと顔を近づけると、目の前にある翠玉の目がそっと閉じた。
彼の肩に掌 を乗せ、彼との距離を詰める。余計な事をする必要は無い、ほとんど身長の変わ らない彼に、ただ近づく。それだけで、彼の柔らかな唇と自分の同じ部分が重な り合う。早鐘のように打ち続ける心臓の鼓動を止めるには、覚悟を決めてほんの 後数センチの距離を進めるだけ。彼の名を呼んでから大分時間が経ってしまって いるような気がするが、実際はそうでもないのだろう。目の前の婚約者は何も言 わず黙って目を閉じて待っている。
あと少し。
あと少しだ。
「…………!」
渋谷有利がはたと目を覚ますとそこは埼玉の一軒家。自宅。
隣に婚約者が寝てはいない。寝られる程ベッドは広くもなく、16歳の身で金髪 の婚約者がいるような特殊な身分でも無い。
「なんつー初夢だよ……」
願望か、願望なのか。
自問した所で答えを出してくれる人などいない。答えを出されても困る。そんな 答えを突き付けられてもどうにもならない。勝手にこちらのベッドに入り込んで きていた婚約者にいつの間にか慣れてしまい、イビキも寝相も迷惑が半分それは それで可愛いが半分くらいにはなってきている。地球に帰ってくると、明らかに こちらのベッドの方が眞魔国の魔王陛下用キングサイズベッドよりは狭いという のに妙に広く感じてしまうのは、隣に一人で大の字になりベッドの面積のほとん どを占拠した揚句ともすると蹴飛ばしてくる元王子様がいないせいだ。
これが初夢という事は、今年の目標は決まったようなものだろう。
有利は神社でパンと掌を合わせる。
今年も家族が幸せでありますように。試合でいい結果が出ますように。ライオン ズが優勝しますように。テストの点がもう少しなんとなりますように。
それともう一つ。
除夜の鐘を聞いたばかりだというのに払い切れなかったのか、ぽんと雑念が有利 の頭に浮かぶ。有利のすぐ目の前で閉じられた翠玉の目。もうちょっと頑張れよ 除夜の鐘。親父に行こうかと誘われたのに寺まで鐘を打ちに行かなかったのが悪 いのか。
「ほら、ゆーちゃん。巫女さんだぞ、巫女さん」
隣で何かを熱心に祈っていた勝利が肘でこちらを突ついてくる。小さな杯に御神 酒を注いでいるおそらくバイトであろう有利と同じ年くらいの巫女さんを目線で 示された。誘われた所で未成年だから酒は禁止だ。
「行ってきていいよ。おれはその辺で待ってるから」
「元気無いな、ゆーちゃん。こんなに巫女さんを見放題なんて一年にこの時しか ないんだぞ」
「おれはしょーちゃんと違ってそういう趣味無いの」
巫女さんがいるからと元気になれるなんて、羨ましい程単純だ。巫女さんも確か に会いたいと思った時にすぐ会えるような存在では無いだろうが、自分の場合は 更に難しい。
「そこにヴォルフがいるなら元気出るだろうけどさ」
「あぁ、あの美少年か。まぁ確かにあの容姿なら巫女服が似合わない事は無いだ ろうが、お兄ちゃんそういうのはいまいちピンと来なくてな。ゆーちゃんはそう いうのがいいのか」
「うん、ヴォルフがいい」
「そうか。異世界に染まっちゃったんだなゆーちゃん……。確かにここの所女装 少年も一ジャンルとして台頭してきている。お兄ちゃんはゆーちゃんの嗜好を否 定する気は無いぞ、萌えはひとそれぞれだ」
何か違うような気がする。
新年早々冷たい水に呑み込まれるのも、寒い事を除けば歓迎だ。
「あけましておめでとう、ヴォルフ」
さすがに季節的に気を使ってくれたのかただの気まぐれなのか温かい湯の張られ た魔王専用風呂の中に着地すると、ウルリーケから聞いていたのかスタツア地点 のすぐ目の前に婚約者が立っていた。新年の挨拶をすると、意味が分からなかっ たのかきょとんとした表情をされてしまう。
「お前は久しぶりに会ったというのにいきなり訳の分からない事を」
「あー、ごめんごめん。こっちだと新年の決めゼリフになんて言うのか分からな かったからさ」
「そうか、あけ……なんと言った?」
ユーリに合わせる。と言ったヴォルフの心遣いに礼を言って、もう一度新年の挨 拶を繰り返す。同じように言い返してくれたヴォルフラムの口から出てきた言葉 だと、家族親戚友人から近所の人にまで数えきれないほど聞いた言葉だというの に改めて感慨が湧く。今年初のヴォルフラムだ。
何も言う必要は無い。
何もしなくても、彼は自分の婚約者で、国中が自分と彼の中を認めている。
「ヴォルフ一人か?」
「あぁ、僕が代表で迎えに来てやった」
「そっか、ありがと」
「なんだ、他に会いたい奴でもいたのかこの浮気者」
「違うって」
勝手な誤解を始めたヴォルフラムの考えを慌てて手を振って否定する。いつもと 同じような会話。今年もこのやりとりは変わらないらしい。今年初の痴話喧嘩だ 。
「何がおかしい」
「だから違うってば」
風呂場の底に尻を付いたままの有利を起こそうと、ヴォルフラムが手を伸ばす。 ヴォルフラムと有利の手が繋がれる。ぎゅっと強く。それに引かれて立ち上がる と、手を離すタイミングが見つけられずにそのまま彼の手を握り続けてしまう。 しまった汗が出てきた。いや、スタツアのせいで濡れているからバレはしないだ ろう。大丈夫だ。
「ヴォルフ……」
彼の名を呼んだ事に意味は無い。単に目の前に彼がいたからで、何の話をしよう とした訳でも無い。
名を呼ばれてヴォルフラムが振り向いた。その仕草で気付く。夢と同じだ。いや 気付いていたから彼の名を呼んだのかもしれない。それともただ自分があの夢を 現実にしたかったからか。
真偽は分からない。
けれど今自分がしたい事は分かる。
それをすれば、途切れてしまった夢の続きが見られる事も。 ----------------------
2008.01.04
「・水陸両用・」の瀬高さまにまたユヴォルを頂いてしまいましたvvvvvv
瀬高さんのお誕生日、私マトモに祝えなかったのにこのように素敵な
お誕生日プレゼントが携帯に舞い込むんだぜコノヤロー!!!///
勝利お兄ちゃんも入れてくれるだなんて優しすぎますよ!///
ああああその後はラブラブでしょう!?ラブラブなんでしょう!?!?
キッス!キッス!とパジェロリズムで携帯に向かって囃し立てました(馬鹿)
いつも本当にありがとう御座いますvvvv
あー可愛い。
瀬高さんのお誕生日、私マトモに祝えなかったのにこのように素敵な
お誕生日プレゼントが携帯に舞い込むんだぜコノヤロー!!!///
勝利お兄ちゃんも入れてくれるだなんて優しすぎますよ!///
ああああその後はラブラブでしょう!?ラブラブなんでしょう!?!?
キッス!キッス!とパジェロリズムで携帯に向かって囃し立てました(馬鹿)
いつも本当にありがとう御座いますvvvv
あー可愛い。