0勝0敗1引き分け


なんとなく水場を眺める。流れる川、公園の噴水。
別に深い意味は無い。恐れ多くもお付き合いさせて頂いている異世界の少年は水を介してこちらとあちらを行き来する。それを思い出しただけ。
買い物を済ませ兵舎に戻り、かいた汗を流そうと湯船に浸かる。いい湯だな、と鼻歌を口ずさみながら。
至福の一時。
だけどちょっとだけ物足りない。
次に会えるのはいつなんだろうなぁとかれこれ2ヶ月は姿を見ていない恋人を思い返す。
いやだわ、グリ江ってばすっかり恋する乙女じゃない。
鏡にちらりと映った自分の情けない表情にうなだれ、ヨザックはため息をついた。
と、その時浴槽の底に黒い影が浮かぶ。
「!?」
そしてぷはぁと可愛らしく息を吐いて水面に顔を出したのは、今まさにヨザックが会いたいと思っていた人物。濡れて尚所々で跳ねる癖っ毛も、ぱちぱちと瞬く漆黒の目も、村田健に他ならない。
「ヨザックだ。久しぶりー」
「お久しぶりです、猊下」
驚き過ぎて思わずごく普通の挨拶が出た。
「ってあんた、なんつー所に出てくるんですか。ここはただの寂れた兵舎ですよ」
「修繕工事の要望ならフォンヴォルテール卿に提出する方が早いと思うけど」
「そんな話はしてません。なんでうちの風呂場なんですか、ウルリーケ様が困るでしょうに」
「う〜ん。さっきまで普通に渋谷と銭湯にいたんだけどね。これはあれだ。前回のスタツアから大分経ってるからそろそろ僕にヨザック供給が必要だという事を察してくれたに違いない」
「眞王陛下がですかぁ?」
そういうものなのかと思いつつ、笑ってぎゅっと抱きついてきた恋人を抱きしめ返す。
直前まで入浴していたという村田は当然裸。こちらも入浴中なので当然裸。ウルリーケ様か自分の上司か誰でもいいから大賢者様の到着を報告しなけりゃいけないよなぁと思いつつも、その前にこれくらいいいだろうと久しぶりの唇を少し味わわせてもらう。
だけのはずが、角度を変え何度も繰り返すうちにいつの間にか口づけは深くなっていく。更に恋人の口から可愛らしい声が洩れてきたとなればもう報告なぞもうどうでもいい。
なにせ2ヶ月もお預けをくらっていたのだ。どれだけ彼が欲しかったか。
「猊下」
「ん? いいよ」
「まだ何にも言ってません」
「その辺はフィーリングで。僕も君に会いたくてたまらなくなってたトコだしね」
「つーか2ヶ月も離れてようやくですか」
こちらときたら毎日考えるのは双黒の少年の事ばかりだったというのに。
まぁ向こうには坊ちゃんもいらっしゃるし、と自分を納得させようとしたのに、当の村田はヨザックの言葉をどう受け止めたのかきょとんとしてしまった。
「2ヶ月? 3日も経ってないけど?」
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまったが、一体どういう事だ。
「あ、そうか。ここと地球じゃ時間の流れ方が違うのか」
全く初耳だ。
という事は、だ。
「……3日も我慢できないんですかあんたは」
「っていうか君が2ヶ月も平気なのが分からない」
不満げに言われてしまったが、平気だった訳が無い。
「そうですか、たった3日でまたオレにこうされたくてたまらなくなっちゃったんですね、猊下は」
「うるさいな」
もう一度、今度は軽く口づけてやると、ぐいと後ろ頭を引き寄せられて向こうから舌を絡ませられる。
やはり報告は後回しだ、とヨザックは優秀な兵士の優先順位まで狂わせる愛しい少年の耳元へ、そっと愛を囁く事にした。





2007.09.19

・水陸両用・」の瀬高さまとの1日1本勝負のラストです。
はひー…最後の最後に、ヨザケンですよ。もう、死に萌える…。
茨城の合宿所で瀬高さんに都内から殺されるところでしたよ。
私の全敗です。完敗です。そしてこのラブなヨザケンに乾杯。
本当に本当にありがとう御座いましたぁ!!!!!
11日連続という恐ろしい功績…やはり…食えぬヤツよのぉ…。