眠る君への口付けは


「村田、天使っているよな」
「いきなり何、宗教論争ならゴメンだよ渋谷」
「そんなんじゃねぇよ」
魔王陛下用のキングサイズのベッドの上にぺたりと座りトランプを広げながら、村田は一番最初に舟を漕ぎ始めた最年長者の寝顔に目をやる。
なるほど、天使。
「うん、確かに可愛い」
「だろ。誰が見てもそう思うよな!!」
「……のろけコース突入なら僕はそろそろお暇させて頂くけど」
そもそも有利とヴォルフラムの二人だけではババ抜きをしても神経衰弱をしてもつまらない、と呼び出されたのだ。一人脱落してしまってはゲーム続行はし難い。
「ヴォルフって絶対モテるよな」
婚約者の寝顔を飽かずに眺めている魔王陛下がふいに呟いた。
どうやらのろけコースから外れさせてくれる気は皆無。
「そうだろうね、フォンビーレフェルト卿は外見も身分も上等だし」
「中身もいいです」
「分かってるって」
「それに比べてほら、おれって外見は平凡だし」
「何言ってんの、眞魔国一の美少年」
「ただのイチ高校生だし」
「よっ、最高権力者。この国の全ては君のものだ」
「村田っ、人が真剣に話してるのにからかうな!!」
「えー、失礼な。僕だって結構真剣に答えてるのに」
「どこがだよ」
有利が分かりやすく拗ねた表情をするのに村田はつい苦笑する。
どうやら親友は婚約者の魅力には聡いのに自分の魅力にはとんと無頓着。
仕方無い、こうなったら親友として少しは彼のお手伝いをしてあげよう。
「渋谷、今君の隣では天使の如き婚約者がネグリジェ姿で眠っている」
「うんそうだな…っておい村田!!」
頷いた親友の腕を思い切り引っぱると、不意打ちに有利はあっさりと転がった。
「さ、渋谷。レッツ既成事実」
「お前何しやがる!!!!」
布団の上で婚約者を組み敷くような体勢になった有利は真っ赤な顔で怒ってくる。
「誰かにとられたらどうしようなんて不安がってる暇があったらきっちり決着付けておれのモノですって主張してやればいいだろ」
っていうかそもそも魔王陛下の婚約者に恋慕しようなんて命知らずがいるとも思えないけどね、という辺りはあえて伏せる。
彼は権力で人を縛ろうというタイプの王様ではないし、
「可愛いよねぇ、フォンビーレフェルト卿」
何よりそっちの方が面白い。
愛しの天使を組み敷いたまま、渋谷有利は微動だにしない。まじまじと婚約者の寝顔に魅入ったままだ。
「誰かに取られてから後悔しても遅いよ」
「……ヴォルフ」
切なく彼の口から洩れたのは婚約者の名前。
村田の言葉に小さく頷いた有利の腕がゆっくりと動き、指がヴォルフラムの頬に触れた。
そして有利の顔が引き寄せられるように婚約者に近づく。
 
 
 
バキ
 
 
 
その時ヴォルフラムが寝返りをうった。
そりゃもぅ元プリとは思えない程豪快に。
婚約者に思い切り蹴飛ばされた魔王陛下はクリティカルした胸を押さえて布団の上でうずくまる。
ハートがとても痛いです。
「…………この…へなちょこが…」
しかもこの可愛らしい寝言によると婚約者は自分の夢を見てくれているらしい。
こんなに心は通じあっているのに。
「負けるな渋谷。男は黙ってもう一度ちゅー!!」
「当分するかっ!!!!」
一世一代の勇気を振り絞っただけに、胸を押さえたまま半泣きで落ち込む魔王陛下はさながら悲劇の主人公。
どうやら眞魔国公認カップルが進展しないのは魔王陛下がへなちょこなせいだけではないらしいと知り、村田は親友を慰めるのも忘れて目の前の光景を笑い飛ばしてやった。





2007.09.18

男は黙ってもう一度ちゅー!!私は悶えて何度もきゅん!!
瀬高さまにやられた…あたいがユヴォル好きって知ってるものね!
萌え死にさせられるかと思いました、茨城の合宿所で。
この人もう水陸以外も自分領域ですよ絶対。空もいけますよきっと。
縦横無尽に萌え世界を切り開いて下さってありがとう御座います!
ロイヤルカップルに栄光あれー!!!