子猫たんを救出せよ!


カチャリとドアが開き、すぐ下の弟が入ってきた。
特に呼んだ覚えは無いが。
「どうした」
「つれないなぁ、グウェン。可愛い弟が大好きなお兄ちゃんに会いにくるのに理由が必要なの?」
「……何の用だ」
自称可愛い弟ことウェラー卿コンラートの笑顔になんだか非常に嫌な予感がして、グウェンダルは思わず眉間に皺を寄せる。
いや、弟が可愛くない訳では決してないのだが。
「可愛い部下もいますよっ」
そしてひょっこり顔を覗かせて許可した覚えもないのにずかずかと上司の執務室に入ってくる可愛い部下兼可愛い弟の幼馴染の姿に、また一筋皺が増える。
この二人が揃うとろくな事にならない。
「……私は仕事中だ」
「コレ、どう思います?」
人の話に答えもせずヨザックが膨らんだ懐から取り出したのは、小さく愛らしい一匹の子猫たん。
「親猫からはぐれちまったんですかねぇ、一匹ぽっちで城の周りをさまよってたんですよ」
「おなかを空かせていたのか力の無い声で鳴いていた所を拾ってきたんだ」
「可哀想に…さぞや心細かっただろう」
あぁこの小さく愛らしい子猫たんが、一体何の罪でそんな悲しい目に遭わなければならなかったのだろう。
ここへ来たからにはもう大丈夫だ、とヨザックの腕に抱かれた子猫たんに手を伸ばす。が、子猫たんが指に触れるか触れないかの所でふいに腕を引っ込められた。行き場所の無い手をどうしようかと空中でさまよわせつつも、グウェンダルの視線は子猫たんの大きな目に釘付けだ。
非常に意地悪い印象を抱かせ、ヨザックがこちらに向かって笑いかけてくる。
「お前はなんのつもりでその子をここに連れてきたんだ」
里親になれとか、餌を分けてくれとか、そういう話を持ちかけにきた訳では無いのか。
「誘いに来たんだよ。グウェン、一緒に食べる?」
「おいしそうでしょー、コレ」
可愛い弟と可愛い部下の口から出た言葉に、グウェンダルの脳は一瞬理解を拒む。
まさか、食べると言ったか。この可愛らしい子猫たんを?
しかもおいしそうだと。食べた事があるのか子猫たんを?
「グリエ、コンラート、子猫たんをこちらへよこせ」
ヨザックの懐で鳴く子猫たんが、もはや助けてと自分を呼んでいるようにしか見えない。
「閣下が料理して下さるんですか? ありがとうございます」
「嬉しいな、俺グウェンの作る料理大好きだよ」
「いいから寄越せ!!」
ヨザックの手から子猫たんを奪おうとすると、ひょいとまたもや途中で引っ込められる。
「グリエ!!」
「グリ江も結構料理上手なんですよっ。グリエのお料理食べたら、閣下、グリ江に惚れちゃうかも。やん、どうしよう」
「心配するな、ヨザ。それはありえない」
「ちょっと隊長っ。それは失礼じゃなくて?」
「いいから寄越せ!!」
ヨザックの腕の中にいる子猫たんを救出しようとすると、素早く避けられそのままコンラートの手の中に子猫たんを受け渡してしまう。
「ヨザ、厨房に行くぞ」
見事だと一瞬二人の息の合い方に感心してしまったが、それ所じゃない。
子猫たんが絶体絶命のピンチだ。
「コンラート、子猫たんをこちらに寄越せ」
「グウェンは俺とヨザがグウェンのために心をこめて一生懸命作った料理が食べたくないの?」
「材料を別のものをにしろ、別のものに。そしたらいくらでも食べてやる」
必死にコンラートの元に駆け寄ると、また子猫たんがヨザックの腕の中に移された。
どんなにか恐ろしい料理かしらないがとにかくこれからこいつらにおいしく料理されようとしているのも知らず、子猫たんはヨザックの腕の中で気持ちよさそうに鳴いているのが心配で仕方ない。
だがヨザックの側まで近寄ると、いつの間にか子猫たんはコンラートの手の中に。コンラートに狙いを定めるとまたヨザックの方へ。
「閣下、どうしたんです?」
「グウェン、疲れてるみたいだけど大丈夫?」
完ッ全に遊ばれている。いい加減限界だ。
 「お前ら、どういうつもりだっ!!」
眉間に皺どころかブチ切れんばかりにこめかみの血管を盛り上げ、グウェンダルが二人を睨み付けると、別段グウェンダルの怒りを恐れるでもなく2人は顔を見合わせて笑い合う。そして頷き合って子猫たんをグウェンダルの腕の中にそっと入れてくれた。一体なんだったんだ。
訳が分からないが、柔らかい子猫たんのふわふわした毛並みに触れていると彼らに散々振り回された事などどうでもよくなってくる。
つぶらな瞳でグウェンダルを見上げる子猫たんのなんと可愛い事だろう。
「グウェン、ちょっとはリラックスできた?」
「椅子に座って書類の相手してるだけじゃ肩が凝るでしょ」
「?」
可愛い弟と可愛い部下が、心配げにこちらを見つめてくる。
確かにここ数日仕事が立て込んでいて、睡眠もほとんど取らず執務机に向かったきりだった。
久しぶりに運動して少し気分がいい。
そうか、そのためにこんな事を。
「…………子猫たんを食べるんじゃなかったのか」
2人の優しさを怒ったりして済まなかった。意外と兄思いの弟と上司思いの部下なのだという事くらい分かっていたのに。
グウェンダルは素直に謝ろうとした、が。
「ヤだなぁグウェン。その冗談つまらないよ」
「閣下こわぁい。そんな可愛い子猫たん食べちゃうんですかっ?」
思い切りそんな気は消し飛んだ。冗談がつまらないのはどっちだ。
そして多分子猫たんを料理するなどという世にも恐ろしい話で自分を動かそうとしたのは小賢しい男はどちらだったのか。
「仕事の邪魔をしに来ただけならいい加減に子猫たんを置いて出て行け二人とも!!」






2007.09.12

満を持してグウェンダルが来たぜ!しかも子猫ネタ!
瀬高様はどのキャラで攻めてくるのか予想出来ません(笑)
コンラートとヨザックなら子猫食べかねないと思ってしまった自分。
二人の可愛らしい気遣いが微笑ましいよねー…手の込んだ形でないと
労ってやれないのか愛しい弟達めぇぇ!!!!
私はしっかり労われたけどな!ありがとう御座いましたぁ!