まさか続いた普通次男


「その後どう?」
と村田が楽しそうにこちらの顔をのぞきこんでくる。
いきなり呼び出してくるから何かと思ったら。
「その後ほとんどオレが外国に出っぱなしだったのは猊下もご存知でしょう?」
彼の他愛ない一言からなぜか隊長と付き合う事になった日から一ヶ月。
いい大人が一ヶ月も付き合っていれば何かと発展があってもおかしくはないが、
残念ながらその一ヶ月の間オレが恋人の側にいられたのは片手の指でも足りる日数。
久しぶりに隊長の顔を見て、彼に回ったままになっていた交換日記を受け取って、
兵舎に戻って自分の分の日記を書いて、彼に回して、戻ってきた。
まぁ進展といえばオレがいなかった間もマメにつけられていた日記でページがかなり埋まった事 くらいだろう。
そして書いてある事は、

『ヴォルフとユーリがケンカをしていた。怒ったヴォルフは可愛い。』
『今日はいい天気だったからユーリとジョギングをした』

……思い返してヨザックは最早何度目か分からなくなってきたため息をついた。
もっとメリハリのある人生送ったらどうだろうかとせっつきたくなる。
「でもキスの一つくらいはしただろ? ウェラー卿の唇の味はどうだった?」
あまりに答え難い直球の質問に思わず黙ると、 それだけでしっかり察してしまったらしい村田にやれやれと肩をすくめられてしまった。
「君たちいくつ?」
「まだまだ人間で言ったら二十歳程の血気盛んなお年頃ですよ」
笑われたって、返す言葉も無いというものだ。



散々からかわれ倒した末にようやく退室し、幼馴染の部屋へ向かう。
別にこちらとて進展を望んでいない訳ではないのだ。
しかし彼の性格のせいかはたまた何せ友達期間が長すぎたせいか、 彼といてもそういう雰囲気が作りにくい。
部屋に入ると一人静かに読書をしている彼がいて、黙って横に座る。
別段言葉を交わすでもなくそのまま。
はたから見たら何をしているのかこいつらと思われるかもしれないが、 これで案外心地いい。
しかし。
ヨザックはきちんと危機感も感じているのだ。
これは交際一月の初々しいカップルの出す空気では無いという事に。
「いい天気だな」
ぽつりとコンラッドが呟いた。
「そうですねぇ」
あぁつられてこっちの返事までなんだかしょぼい。
恋人に気の利いた言葉の一つも掛けられないのかオレは!!
「隊長」
「どうした?」
本をどかして彼の顔を間近に眺める。
そこにあったのは、色々な事があって、本当に色々な事があって、ようやく彼が手に入れた穏やかな笑顔。
何か言ってやろうかと思ったのにどうでもよくなってしまう。
何も変わらなくていいし変える必要も無い。
今このままの彼が大切で仕方ない。
ちゅ
「………はぁ!!??」
のに思わず素っ頓狂な声が出た。
いいいいいいい今唇に何か柔らかいものが当たったような !!!!????
「た……隊長……?」
「あぁ、目の前にあったからなんとなく」
「!?」
恋人に初めてのキスを贈った直後の言葉がこれ!!
いまだかつてこんなにも無常な言葉を吐かれた可哀想な恋人がいただろうか、いや、ない。
「た…隊長は目の前にあればなんにでもキスする男なんですねっ!? このケダモノっ!! 酷い、グリ江の純情を返してっ!!」
ハンカチを噛む仕草をしながらヒステリックに叫ぶと、仕方ないなぁとでもいうように頭を撫でられる。
そんなフォロー嬉しかない。
挙句もう一度キスされた。
「違うな」
「何がですか」
これ以上まだ何か言う気何かと怯えながら彼を見上げる様は最早小動物。
そして次なる彼の爆弾発言はコレ。

「目の前にあったのがお前だったからだな」

それはさもなんでもない日常会話のように。
いい天気だなと呟いた時と全く変わらず淡々と。
「隊長っ!!!!」
なのに不覚にも感極まってぎゅっと抱きついてしまったらあやすようにぽんぽんと背中を叩かれる。
なんですかそれ、ここは抱きしめ返してくれるトコですよ。
あぁ全く、今日の日記の内容は決まったようなものだ。

『今日も隊長は隊長でした。』

2007.08.02

今度は白鳩便にURLが載っかってきましたよ!
普通次男が吉田のサイトで連載に!(笑)
あああああ目の前にあってチューしちゃうなんて!
なんて罪深き普通次男!苦悩するヨザも適度に乙女で愛しすなぁvvv
本当にありがとうございましたぁ!!